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ALSモデルブタの作出に成功、ヒト変異型SOD1遺伝子を導入-CiRAほか

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2023年01月13日 AM10:44

解剖学的特性がよりヒトに近いALS動物モデルが必要

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は1月12日、)を引き起こす原因遺伝子の一つであるスーパーオキシドジスムターゼ1()遺伝子のプロモーター領域を含む遺伝子変異体をブタに導入することでブタALSモデルを作出したことを発表した。この研究は、同研究所の近藤孝之特定拠点講師(増殖分化機構研究部門特定拠点講師、(理研)バイオリソース研究センター(BRC)iPS創薬基盤開発チーム客員研究員、理研革新知能統合研究センター(AIP)iPS細胞連携医学的リスク回避チーム客員研究員)、井上治久教授(CiRA同部門教授、理研BRC同チームチームリーダー、理研AIP同チーム客員主管研究員)、明治大学バイオリソース研究国際インスティテュートの長嶋比呂志氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Laboratory Investigation」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ALSは、運動神経細胞の障害により四肢の筋萎縮や球麻痺を引き起こす神経変性疾患であり、嚥下障害や呼吸筋麻痺により死に至る。現在までに、SOD1遺伝子を含む30種類以上のALS関連遺伝子が報告されている。SOD1は、1993年に家族性ALSの原因遺伝子として同定され、マウスなどのモデル動物にヒト変異体SOD1(mutant SOD1:mSOD1)を過剰発現させると、運動神経細胞の変性や寿命の短縮などのALS様の症状を呈することが知られている。

変異SOD1を持つ遺伝子改変マウスやラットは、ALSの治療法開発に用いられてきたが、マウスやラットなどのげっ歯類の体のサイズは、ヒトと異なるため、実際のヒトでの遺伝子・細胞治療へとそのまま進む前に、体のサイズや構造など解剖学的特性がよりヒトに近い動物モデルが必要とされていた。この課題の解決策として、ブタを使用することにより、遺伝子・細胞治療の開発に用いることができる大型実験動物のALSモデルを作り出すことを計画した。

作出したALSモデルブタ、無症候性段階でALS病態

SOD1タンパク質は、哺乳動物の体全体に広く発現している。研究グループは、ヒトSOD1プロモーターとともにG93A変異を持つヒトSOD1遺伝子座のゲノム構造を、遺伝子工学技術を用いてブタに導入してモデルを作出。細胞や遺伝子治療などの前臨床研究開発へ適合する生理学的なSOD1の発現をブタ体内で再現することを目指した。

ALSは、上肢および下肢の運動神経細胞の進行性変性を特徴とし、四肢の筋力低下を引き起こす。モデル動物を用いた以前の研究では、ALSの病態は無症候期間中にも進行する可能性があることが示唆されている。そして運動機能の臨床的低下が現れると、神経症状が急速に進行することが知られているため、無症状の段階を含め、より早い段階で治療介入を開始することが重要だ。そこで、無症候性段階におけるブタALSモデルで、ALS病態が存在するかどうかを調べた。

ブタALSモデル(TgK193、TgW368)の脊髄前角の運動神経細胞を、細胞質コリンアセチルトランスフェラーゼ(choline acetyltransferase:ChAT)の免疫染色により野生型のブタ(WTK185、WTW398)と比較すると、細胞体が小さく数も減少傾向が見られた。これらは、ALS患者でも見られる、運動機能障害につながる変化と考えられた。

脊髄前角の運動細胞内にmisfolded SOD1の蓄積を確認

SOD1遺伝子関連性のALS患者やげっ歯類モデルの脳神経において、変異型SOD1タンパク質は異常な折り畳み構造をとったmisfolded SOD1として蓄積することが知られている。Misfolded SOD1は、強い神経細胞毒性につながることが知られており、重要なALS病態であり治療法開発における標的となる。これを踏まえ、misfolded SOD1を特異的に認識する抗体を用いて、ブタALSモデルの脊髄を調べた。すると、脊髄前角の運動細胞内にmisfolded SOD1が蓄積していることがわった。

軸索の変性も確認

さらに、ALS病理の初期異常の1つである軸索変性を分析するために、ブタALSモデルの腹側神経根を取り出し調べた。すると脊髄運動神経細胞の細胞体よりも顕著なmisfolded SOD1の蓄積がみられた。

そして、運動神経細胞の軸索変性を評価するために、前根に存在するChAT陽性の軸索数を数えたところ。ブタALSモデルでは、大口径線維の数が減少していることがわかった。これらの結果は、脊髄前根の運動神経軸索がmisfolded SOD1の蓄積により変性したことを示している。

「このブタALSモデルはヒトに似た解剖学的特性を持つことから、今後、ALSの遺伝子・細胞治療の前臨床研究に適合する大型実験動物として活用され、ALSの遺伝子・細胞治療法開発への道筋となることが期待される」と、研究グループは述べている。

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