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転移しやすく治療抵抗性の内向型舌がん、有望な標的因子を発見-東京医歯大ほか

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2022年07月22日 AM10:39

内向型舌がんに高発現するIGFBP-3、その役割は不明だった

東京医科歯科大学は7月21日、高転移能かつ治療抵抗性を示す内向型舌がんにおいてIGFBP-3が、がん細胞の細胞遊走能や細胞増殖能を促進する働きがあることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科歯科放射線診断・治療学分野のEsther Feng Ying Ng大学院生、戒田篤志助教、三浦雅彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」誌にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

口腔がんで最も発生頻度の高い舌がんは、肉眼的所見から表在型、外向型、内向型の3種類に分類することができる。このうち内向型舌がんは、他のタイプに比べて、転移しやすく、放射線治療や従来の化学療法に抵抗性を示すため、内向型舌がんに対する新たな治療法の開発に向け、その標的因子の探索が急務とされていた。先行研究において、研究グループは内向型舌がんに特異的に発現している遺伝子の探索を進め、その中でヒト舌癌検体を用いたIGFBP-3が、他のタイプと比較して、内向型舌がんにおいて有意に高発現していることを発見した。しかし、内向型舌がんにおけるIGFBP-3の役割は不明なままだった。

内向型舌がん由来細胞で細胞遊走や細胞増殖に関与することを確認

今回の研究ではまず、内向型舌がんにおいてIGFBP-3がどのような機能に関与しているかを明らかにするため、内向型舌がん由来細胞のIGFBP-3発現をsiRNAにより抑制し、その際に変動する遺伝子をRNAシークエンシングにより網羅的に解析した。その結果、IGFBP-3が細胞遊走や細胞増殖に関連する遺伝子群の発現制御に関与していることが明らかになった。実際、内向型舌がん由来細胞においてIGFBP-3発現を抑制すると、細胞遊走能が低下し、また、細胞周期におけるG1期の延長による細胞増殖抑制が生じることを見出した。細胞周期可視化システムであるFucciを応用することで細胞周期相と細胞遊走能の関連性を調べたが、IGFBP-3により制御される細胞遊走能は細胞周期相によって違いはないことがわかった。

細胞内のIGFBP-3、ERK経路を介して細胞遊走を制御

また、IGFBP-3は細胞内だけでなく、細胞外にも分泌され、細胞外から細胞に作用することも知られている。細胞遊走能への細胞外IGFBP-3の関与を調べるため、遊走能が低下したIGFBP-3抑制細胞にヒトIGFBP-3組換えタンパク質を添加したところ、細胞遊走能は回復せず、内向型舌がんにおいては細胞内のIGFBP-3が細胞遊走を主に制御している可能性が示唆された。また、IGFBP-3抑制細胞では、ERK活性が低下している点から、ERK経路がIGFBP-3により制御される細胞遊走に関連していることが示された。

新たな治療法への応用が期待される

内向型舌がんは治療抵抗性を示すことから、より効果的な新規治療法の開発が望まれるが、その治療標的はまだ見つかっていなかった。今回研究グループは、IGFBP-3が高発現している内向型舌がんにおいて、細胞内のIGFBP-3が細胞遊走能および細胞増殖を促進することを明らかにした。IGFBP-3が、特に悪性度の高い内向型舌がんの進展や転移を食い止める有望な標的因子として新たな治療法へ応用されることが期待される。「IGFBP-3の発現が低い舌がん細胞株では、細胞遊走や増殖に対するIGFBP-3の関与は少ないことも見出しており、各細胞におけるIGFBP-3への依存性の違いがどのようなメカニズムに起因するかは今後解決すべき課題となる」と、研究グループは述べている。

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