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ピロリ菌感染が胃がんの予後改善に関わる免疫応答を誘導する可能性-岩手医科大ほか

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2022年04月21日 AM11:15

ヘリコバクター・ピロリ陽性進行胃がん、陰性患者と比較して予後良好な理由は?

岩手医科大学は4月19日、進行胃がん658症例について解析を行い、ヘリコバクター・ピロリによる感染により誘導される宿主免疫応答を介して予後の改善に関連していることを明らかにしたと発表した。この研究は同大医歯薬総合研究所医療開発部門の小泉優香大学院生、西塚哲特任教授らの研究グループが米国ジョージメイソン大学などと共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of the National Cancer Institute」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年の手術および薬物療法の進歩とともに、進行胃がんに対する治療法も変化しながら予後は改善されてきた。一方、再発リスクの高いグループを予測する指標の開発は現在も課題となっている。胃がん治療は国・地域によって異なるが、各国からヘリコバクター・ピロリが陽性の進行胃がん患者は予後が良いことが報告されている。研究グループが行った日本人を対象とした先行研究でも、ヘリコバクター・ピロリ陽性進行胃がん患者は陰性患者と比較して予後が良いことが確認されていた。

ヘリコバクター・ピロリは胃炎の原因として知られているが、すべてのヘリコバクター・ピロリ感染者が胃潰瘍や胃がんを発症するわけではない。胃がんに関しては、ヘリコバクター・ピロリ感染によって胃がんにかかるリスクは上昇するが、感染しても大多数の人は胃がんに罹患しない。また、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌療法が日本で保険適用になる以前から胃がんの死亡率は一貫して低下しており、ヘリコバクター・ピロリ感染が胃がんによる死亡の直接的な原因ではないことが推察されている(国立がん研究センターがん情報サービス「がんの統計2021」)。

そこで研究グループは、ヘリコバクター・ピロリ感染により予後が改善する理由として、進行胃がん患者の全身的な免疫反応の関与があるとの仮説を立て、免疫組織学的指標をもとに統計解析を行った。

北海道・東北地方の進行胃がん手術658例を対象に調査

日本における進行胃がんに対する現在の標準治療は手術と術後補助化学療法であり、標準治療が広く普及し手術単独という場合が非常に少ないため、化学療法の効果を評価するために手術単独の治療も行われていた年代の症例を集積して解析を行った。具体的には、2009~2013年までの間に北海道・東北12施設で進行胃がんの手術(根治的胃切除)を受けた658症例を解析対象とした。この対象では、先行研究からヘリコバクター・ピロリ陽性群において、陰性群と比較して統計学的に有意な差をもって生存率が良いことがわかっている。その機序を明らかにすることを目的に、胃切除検体におけるヘリコバクター・ピロリの感染状態に加え、免疫逃避に関わるPD-L1の発現レベル、およびリンパ球浸潤などの免疫組織学的指標を判定した。これらの判定結果と、年齢、治療方法、胃がんのステージ等の臨床病理学的因子を組み合わせて統計解析を行った。

ピロリ菌陽性でPD-L1発現がなくS-1術後化学療法の場合、5年無再発生存率が28%高い

臨床病理学的因子および免疫組織学的指標をヘリコバクター・ピロリ陽性・陰性に分けて比較を行ったところ、「PD-L1の発現」と、「術後補助化学療法に用いられる抗がん剤S-1の用量」の2つの因子が術後の「」と関連していることがわかった。胃切除検体でPD-L1の発現がなく、かつS-1術後化学療法を使用した群に絞り込むと、ヘリコバクター・ピロリ陽性群の5年無再発生存率が陰性群と比較して28%高いことがわかった。ヘリコバクター・ピロリ陽性群の5年無再発生存率が高いという傾向は、一般的に予後が良くないと想定されるS-1術後化学療法の用量を減量した群でも顕著に認められた。

進行胃がん患者がヘリコバクター・ピロリ陽性かつ胃切除検体のPD-L1発現がない場合、術後補助化学療法後の予後が良好であったことから、ヘリコバクター・ピロリ感染が術後化学療法に有利な宿主免疫応答を惹起したことが示唆された。「進行胃がんにおけるヘリコバクター・ピロリ感染状態と胃切除検体のPD-L1発現の判定を組み合わせることで、抗がん剤の薬剤選択および投与量決定における補助的役割を担う可能性がある」と、研究グループは述べている。

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