プライマリ・ケアの質を評価する短尺度「PCPCM」、臨床アウトカムとの関連は未検証
横浜市立大学は6月4日、全国20〜74歳の一般住民800人を対象としたオンライン調査から、プライマリ・ケアの質を評価する「患者中心のプライマリ・ケア評価尺度(PCPCM:Person-Centered Primary Care Measure)」のスコアが高いほどインフルエンザワクチン接種率が有意に高いことを初めて実証したと発表した。この研究は、同大大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Family Practice」に掲載されている。

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インフルエンザワクチンは全年代で推奨される予防医療である一方、接種率は依然十分とはいえない。プライマリ・ケアは予防接種実施の主要な場であり、その質の指標として近年開発されたPCPCMは11の領域を11項目で包括的に測定できる短尺度である。しかし、臨床アウトカムとの関連は未検証だった。
「過去1年以内インフルワクチン接種」という具体的アウトカムとの関連を800人で調査
そこで今回の研究は、PCPCMスコアとワクチン接種という具体的アウトカムの関連を初めて評価した。同研究では、2022年11~12月にかけて、全国150万人規模のインターネット調査パネルから年代と性別がばらつくように抽出した1,112人にアンケートを送り、800人(回答率約72%)の回答を得た。質問票では、ふだん健康相談に行く「かかりつけ医療機関」があるか、その医療機関での受診体験を11項目で評価する「PCPCM」スコア、過去1年以内にインフルエンザワクチンを受けたかを尋ねた。
「かかりつけ医有り+PCPCMスコア最高」の接種率54%、「かかりつけ医なし」の2倍超
回答を分析した結果、かかりつけ医を持たない人の接種率は22%であった。一方、かかりつけ医を持ち、かつ、PCPCMスコアが最も高い人たちでは54%と、2倍以上の開きがあった。年齢・性別・学歴・収入など生活背景を考慮して計算し直しても、この差は統計的に確かであった。また、PCPCMスコアを4段階に分けて比較すると、スコアが一段階上がるごとに接種率が着実に上昇しており、PCPCMで測定されるプライマリ・ケアの質が高いほどワクチン接種が高いことが示された。
各国でのプライマリ・ケアの質の測定を後押しする成果
PCPCMは28言語に翻訳され世界で利用が拡大している。同研究は同尺度が臨床アウトカム改善と結び付く可能性を示した最初のエビデンスであり、各国でのプライマリ・ケアの質の測定を後押しする成果である。今後は他の予防医療や慢性疾患に関するアウトカムとの関連を検証し、因果推論を可能にする縦断研究などを私たちの研究チームで行っていく予定である。また、今回の成果をきっかけに諸外国の研究者によるこの領域の研究の更なる進展が期待される、と研究グループは述べている。
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