医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 乳酸菌YRC3780株の摂取、ストレスによるコルチゾル濃度の変動に影響-北大ほか

乳酸菌YRC3780株の摂取、ストレスによるコルチゾル濃度の変動に影響-北大ほか

読了時間:約 3分11秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年08月05日 AM10:50

伝統的発酵乳ケフィア分離株YRC3780、日常的摂取による影響は?

北海道大学は8月4日、乳酸菌YRC3780株の摂取が心理的なストレスの原因(ストレッサー)を与えた際に、ストレス反応の指標となるコルチゾルと呼ばれるホルモンの濃度の上昇(ストレス応答)からの回復を早める抗ストレス作用をもつことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授、松浦倫子学術研究員、よつ葉乳業株式会社中央研究所の元島英雅研究員、内田健治研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Clinical Nutrition」に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトの腸管には約1,000種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌が生息している。それら腸内細菌の集まりを腸内細菌叢と言う。近年、腸内細菌叢の乱れがメタボリックシンドローム、がん、うつ病といった疾患のリスクを高めることが知られている。ヒトの体には、心理的・身体的ストレッサーに適応するための防御システムが備わっている。代表的な例は、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis系)であり、その活動度は副腎皮質ホルモンであるコルチゾル濃度から測ることができる。腸内細菌叢とHPA axis系のストレス応答との関係については、腸内細菌叢を持たない無菌マウスでは腸内細菌叢が正常な野生型マウスに比べて、HPA axis系のストレス応答の指標であるコルチコステロン濃度が増加することが知られている。また、プロバイオティクスなどの微生物を摂取することで、抗ストレス作用が確認されたという報告例もある。つまり、腸内細菌叢が変化することもしくは微生物を摂取することで、ストレス応答を制御できる可能性がある。また、伝統的発酵乳のケフィアには抗ストレス作用があることが知られている。

よつ葉乳業株式会社が保有する乳酸菌YRC3780株はケフィア分離株であり、抗ストレス作用を有する可能性が期待されていた。しかし、日常的なYRC3780株の摂取が、体内時計に制御されるHPA axis系の日内変動、心理的なストレッサーを与えた際のHPA axis系のストレス応答、腸内細菌叢に与える影響については検証されていなかった。

YRC3780摂取群16人とプラセボ摂取群17人でストレス応答等を比較

今回の研究では、健常成人33人をYRC3780摂取群(16人)とプラセボ摂取群(17人)の2グループにランダムに分けた。被験者は、試験食(YRC3780株、プラセボ)を摂取せずに通常どおりの生活習慣を送るベースライン期間で2週間過ごした後、試験食を8週間摂取した。また、10週間にわたる実験期間中、睡眠の質を客観的に評価するための腕時計型活動量計を装着して過ごした。さらに被験者は、ベースライン最終日、試験食摂取 2、4、6、8 週間後に起床から2時間おきに8回唾液を採取し、唾液中コルチゾル濃度リズムを測定した。また、質問紙を用いて主観的な睡眠質、気分状態、メンタルヘルスの測定を行った。腸内菌叢の変化を調べるためにベースライン最終日、試験食摂取4、8週間後の計3回、糞便を採取した。そして、8週間の試験食摂取期間の終了後、被験者はHPA axis系のストレス反応の評価に広く用いられているTSST試験を実施した。TSST試験前およびTSST終了直後から30分後まで10分間隔で唾液を採取し、唾液中コルチゾル濃度を測定した。

乳酸菌YRC3780株の摂取は主観的な睡眠の質とメンタルヘルスを改善

結果、YRC3780を摂取したグループでは、プラセボを摂取したグループに比較して、摂取開始から6週目、8週目に測定した唾液中コルチゾル濃度の日内変動において、午前中のコルチゾル濃度の低下が観察された。また、YRC3780を摂取したグループでは、主観的な睡眠の質およびメンタルヘルスに関する質問紙(AIS:アテネ不眠尺度質問票、 GHQ28:GHQ 精神健康調査票)の得点が、有意に低下することが観察された。

そして、HPA axis系のストレス反応を評価するTSST試験を試験食の摂取開始から8週間後に実施した結果、TSST試験終了後の唾液中コルチゾル濃度は、両群ともにTSST試験実施前に比較して有意に上昇し正常なストレス応答がみられたが、YRC3780を摂取したグループではプラセボ摂取群に比較して、唾液中コルチゾル濃度が低い値で推移し、TSST試験開始から40分後の唾液中コルチゾル濃度が有意に低い値であることを観察した。

一方、糞便中の腸内菌叢解析の結果においては、YRC3780摂取群とプラセボ摂取群の間で有意な差は認められなかった。これらの結果より、日常生活の中で乳酸菌YRC3780を摂取することにより心理的なストレスに対する生理的なストレス応答が改善されることが示唆された。ストレス応答の改善は、乳酸菌YRC3780の摂取が体内時計に制御されるコルチゾルリズムの日内変動を穏やかにし、主観的な睡眠の質とメンタルヘルスを改善する効果と関連する可能性が示唆された。今回の研究成果について、研究グループは、「メンタルヘルスの改善、メンタルヘルスの不調に起因する疾患を予防する食品の開発への応用が期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 子の食物アレルギーは親の育児ストレスを増加させる-成育医療センター
  • 認知症のリスク、歯の喪失だけでなく咀嚼困難・口腔乾燥でも上昇-東北大
  • AI合成画像による高精度な「網膜疾患」の画像診断トレーニング法を開発-広島大ほか
  • 腹部鏡視下手術の合併症「皮下気腫」、発生率・危険因子を特定-兵庫医大
  • 自閉スペクトラム症モデルのKmt2c変異マウス、LSD1阻害剤で一部回復-理研ほか