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「魚骨触錯覚の消失現象」を数理皮膚科学で解明-北大ほか

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2021年06月07日 PM12:15

魚骨触錯覚という凹凸形状の錯覚、神経科学的な検証は困難

北海道大学は6月4日、人間の触覚による形状認識の仕組みを説明する数理モデルの構築とその検証研究を行い、触覚で生じる錯覚現象(触錯覚)を活用して、その触錯覚が生じなくなる現象を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大電子科学研究所の長山雅晴教授、慶應義塾大学環境情報学部の仲谷正史准教授らの研究グループが、(JST)戦略的創造研究推進事業の支援を受けて行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ヒト触知覚の全容は、五感の他の感覚に比べるとわかっていることが少ない。その一例として、指先で触れているものの形(凹凸形状)をどのようにして認識しているのかについては、心理科学や神経科学の手法によって研究が行われてきているが、日常生活で体験する現象に広く汎化できる知見については研究の余地が残されている。研究グループは、Fishbone Tactile Illusion()という凹凸形状の錯覚が引き起こされることを研究によって明らかにしたが、その知覚メカニズムを神経科学の研究手法で直接得るためには、多数の感覚神経から同時に末梢神経活動を計測する必要があり、その検証実験は現時点の技術でも実現が困難だった。

数理皮膚科学モデルの構築とその検証研究で、触錯覚が生じなくなる現象を発見

今回、研究グループは、触覚の錯覚現象を利用して、人間の手の指先における凹凸形状認識の性質についてヒト官能評価を通じて定量化した。指先に物体が触れる際には、皮膚を押し込む方向の変形(垂直変位)と皮膚を伸縮させる方向の変形(水平変位)があるが、この水平変位を実験的に減弱する方法を援用した心理実験を実施した結果、統計的有意に錯覚量が減少した。

この結果自体、ヒト触知覚特性を明らかにする現象として興味深いものだが、今回の研究ではその背後にある触認知メカニズムに迫る研究を実施した。具体的には、生体触覚センサが持つ機械受容イオンチャネルの性質を加味した機械受容器の応答特性モデルを援用し、複数の機械受容器が1本の感覚神経に接続して情報統合を行う仕組み、それが神経活動電位に変換される仕組みをHodgkin-Huxley方程式を援用した数理モデルによって表現し、コンピュータ上で機械受容器を再現した。この機械受容器を72個並べることでヒト指腹部の機械受容野を構築。いわゆるバーチャルな触覚センサを計算機上に設計した上で、触錯覚現象を生じさせる機械刺激をシミュレーションし、指先の感覚神経が生じさせるであろう末梢皮膚内の感覚神経群の時空間応答を予測した。

心理実験と数値シミュレーション実験の結果を組み合わせて解釈を行った結果、触覚刺激が触覚感覚神経の応答情報に変換される際に、72本の感覚神経が同時に応答するのではなく、時差を持って応答することでヒトの指先における触覚形状認知をもたらし得ることが示された。

神経義手・義足の開発にも有用な知見

今回の研究による知見は、普段、身近に感じている触覚の現象(柔らかい感覚やスベスベした感覚)を感覚神経科学の観点から説明する数理感覚の数理モデルとして利用することが可能だ。現行の神経科学の研究手法(マイクロニューログラム法)では、単一もしくは少数の感覚神経の応答を計測することは可能であっても、日常的に体験する触覚刺激を提示した場合に、多数の感覚神経応答を高精度に計測する技術は確立していない。同研究で得られた知見を利用することで、計算機上で感覚神経応答をシミュレーションすることができれば、複雑な触覚刺激に対しての応答特性や、未解明である触知覚・認識の神経基盤を末梢神経科学の視点から明らかにすることに貢献できるという。

また将来、多数の感覚神経応答を同時に計測する技術が開発された場合に、今回の研究が予測している結果との違いを比較することで、新たなる触覚神経科学の知見創出につながる可能性がある。短期的な応用先には、遠隔に触覚を伝達する技術における情報生成アルゴリズムの開発や、その知見に基づく触質感再現装置の開発が期待されるという。また、疾病や障害により手足の感覚神経が失われたり、手足そのものを失ったりする場合に装着する義手・義足への触覚入力をセンシングして感覚神経に伝達する神経義手・義足の開発にも今回の知見が有用だ。研究グループは、研究成果について、「将来的には、中枢神経系に直接、末梢の感覚神経情報を伝達する脳埋め込み型の情報伝達技術の基盤となると捉えている」と、述べている。

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