CpG DNAの免疫活性化能を利用したがん免疫療法、効果不十分で実用化に至っていない
東京都医学総合研究所は5月23日、CpG ODNと呼ばれる抗がん活性をもつDNAのがん免疫誘導活性が、CXCL14と呼ばれるケモカインとの相互作用によるものであることを解明したと発表した。今回の研究は、同研究所幹細胞プロジェクトの種子島幸祐主席研究員(現ゲノム動態プロジェクト)、原孝彦プロジェクトリーダー、SBIバイオテック株式会社の江指永二研究開発部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Immunology」にオンライン掲載されている。

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ケモカインは細胞の遊走を促進する分泌タンパク質であり、白血球を呼び寄せることで炎症反応などに寄与していることが知られている。このケモカインの一般的な機能に加えて、2017年に同研究所幹細胞プロジェクトの研究により、ケモカインの一種であるCXCL14がCpG DNAと呼ばれる細菌のDNAに多く含まれるDNA配列に結合し、その樹状細胞への取り込みとその細胞内受容体であるTLR9の活性化を介して、自然免疫の誘導や炎症反応を大幅に増強するという新たな機能を発見していた。一方で、このCpG DNAの免疫活性化能に着目して、短い(20~25 bp)程度の合成DNA(CpG Oligonucleotide:CpG ODN)を用いて抗腫瘍免疫を誘導する試みがなされていたが、その効果が不十分であることから、実用化には至っていなかった。
構造改変で、高いサイトカイン誘導活性を持つCpG ODN開発に成功
研究グループはCpG ODNの活性を高めるため、それまで分解を防ぐために一般的に行われていたCpG ODNのPhosphorothioate化(S化)を改変し、部分的に野生型のリン酸結合に改変したCpG ODNについて活性を検討した。すると、ある特定の形でS化を改変したCpG ODN(A602)がヒト樹状細胞およびマウスマクロファージ、樹状細胞に対して高いサイトカイン誘導活性を持つことがわかった。
CXCL14と高親和性示すA602、さまざまながん種のマウスモデルに抗腫瘍効果を発揮
また、このA602はマウスの大腸がん、リンパ腫、皮膚がんモデルなど、さまざまながん種への抗腫瘍効果を示した。さらに、A602がCXCL14と高親和性で結合し、CXCL14がA602のマクロファージや樹状細胞への取り込みを増強させ、抗腫瘍活性に関連するサイトカインの誘導も大幅に増強させることを見出した。A602の抗腫瘍活性とCXCL14の複合体形成の関連性を調べるため、Cxcl14をノックアウトしたマウス(Cxcl14-KOマウス)に皮膚がん細胞(メラノーマ)を移植して抗腫瘍効果を検討した。すると、Cxcl14-KOマウスにメラノーマを移植した際にはA602の抗腫瘍効果が消失しており、CpG ODNの抗腫瘍効果にCXCL14との協調的な作用が必須であることが明らかとなった。
これらの発見は、抗がん活性を持つDNAの生体内における新たな作用機序を明らかとするものであり、CpG ODNの抗腫瘍活性が有効な患者の特定や、より強い効果を得るための分子メカニズムの解明につながるものと考えられる。
従来の免疫療法で効果が限定的な難治性がんに対し、有効な治療開発につながる可能性
今回の研究では、抗がん活性を持つDNAとケモカインCXCL14の相互作用とその分子メカニズムを詳細に解明した。この知見は、がん免疫療法の新たな地平を切り開く可能性がある。
「本研究で明らかにしたCXCL14とCpG DNAの協調的な作用機序は、従来の免疫療法では効果が限定的であった難治性がんに対しても有効な治療アプローチの開発につながると考えている。特に、患者個々のCXCL14発現量などを指標とした治療効果予測バイオマーカーの開発を進めることで、CpG ODNベースの治療が特に効果的な患者群を特定できるようになるかもしれない。これにより、治療効果を最大化しつつ、不必要な副作用を回避することが可能となるほか、医療費の削減にも貢献することができると考えている」と、研究グループは述べている。
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