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食道扁平上皮がんでLIF-SFK-YAP経路が新たな治療標的となる可能性-慶大ほか

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2020年10月05日 PM12:00

IL-6ファミリーのサイトカイン「」に着目

慶應義塾大学は10月2日、食道扁平上皮がん細胞が分泌するIL-6ファミリーサイトカインの一員である白血病阻止因子「LIF」( inhibitory factor)が、がん細胞自身の細胞増殖や細胞死に重要であることをヒト食道扁平上皮がん由来培養細胞とマウス実験で明らかにしたと発表した。これは、同大医学部微生物学・免疫学教室の谷口浩二准教授、川副徹郎訪問研究員らの研究グループと、九州大学大学院消化器総合外科の森正樹教授、群馬大学大学院医学系研究科総合外科学講座の佐伯浩司教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Molecular Cancer Research」(オンライン版)に掲載されている。


画像はリリースより

食道がんは、食道の粘膜から発生する男性に多い悪性腫瘍。日本では、食道がんの90%は食道扁平上皮がんであり、その発生には喫煙と飲酒が大きく関係していることが知られている。早期発見例では、内視鏡で切除することが可能だ。一方で進行がんには手術、化学療法などを含む集学的治療が行われるが、これは進行がんに対して満足できる治療成績ではなく、新規治療方法の開発が強く望まれている。

LIFの下流シグナル伝達経路において、JAK-STAT3経路に加えて、SFK-YAP経路も活性化

研究グループは初めに、ヒト食道扁平上皮がん細胞株において、がん細胞自身がLIFを発現していることを発見した。LIF発現の重要性を検討するために、ヒト食道扁平上皮がん細胞株においてLIFの発現を抑制したところ、細胞増殖の抑制と細胞死の亢進、細胞浸潤の抑制、がん幹細胞性の抑制が認められた。また、LIFの発現を抑制したヒト食道扁平上皮がん細胞株を免疫不全マウスへ移植すると、マウス内での腫瘍増殖が有意に抑制された。

次に、ヒト食道扁平上皮がん細胞株において、LIFがどのようなシグナル伝達経路を活性化しているかを検討。その結果、これまで知られているJAK-STAT3経路に加えて、SFK-YAP経路を活性化していることが明らかになった。また、ヒト食道扁平上皮がんの組織切片においても、YAP活性化とSFK活性化、YAP活性化とLIF発現の関連が明らかになった。以上の結果は、食道扁平上皮がんにおけるYAPの活性化ががん遺伝子であるSFKを介している可能性を示唆している。

SFK阻害剤とJAK阻害剤を同時投与で増殖を抑制

さらに研究グループは、上記両経路を抑制するために、SFK阻害剤とJAK阻害剤を同時投与したところ、がん細胞の増殖をほぼ100%抑制できることを確認した。以上の結果から、食道扁平上皮がん細胞自身が分泌するLIFは、JAK-STAT3経路に加えて、SFK-YAP経路を活性化することでがんの進展を促進していることが明らかになり、LIF-SFK-YAP経路が食道扁平上皮がんにおける新規治療標的となる可能性が示された。

今回の研究で食道扁平上皮がんに対し高い抑制効果を示したSFK阻害剤とJAK阻害剤は、すでにヒトにおいて他疾患に使用されている薬剤である。「今後の研究により、SFK阻害剤とJAK阻害剤が食道がんの治療にも応用されることが期待される。さらに、LIFは他のがん種においても発現が報告されており、他のがん種においても今回の研究結果を応用できる可能性がある」と、研究グループは述べている。

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