医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 膵がんで高発現する新規環状RNAを同定、新たなバイオマーカーとなる可能性-東大病院

膵がんで高発現する新規環状RNAを同定、新たなバイオマーカーとなる可能性-東大病院

読了時間:約 2分58秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年09月07日 PM12:15

線形RNAより血液中で安定の環状RNA、膵がんバイオマーカーになる?

東京大学医学部附属病院は9月3日、環状RNAに特異的なRNAシークエンス解析を行い、膵がんにおいて高発現する環状RNAを網羅的に探索した結果、既存のデータベースにない新規環状RNAを見出し、その全長配列を同定したと発表しました。これは、同大学医学部附属病院 消化器内科の清宮崇博大学院生、大塚基之講師、小池和彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Human Genetics」のオンライン版に掲載されている。

膵がんによる死亡者数は年々増加傾向にあり、部位別でのがん死亡数は肺がん・大腸がん・胃がんに次いで第4位となっている。膵がんは早期発見が難しく、診断時にはほとんどの患者において高度に進行した状態で発見されるため、外科的切除の適応とならず、抗がん剤治療の進歩はあるものの、依然として5年生存率は8.5%と極めて予後不良であり、難治がんの代表とされている。そのため、膵がんの早期発見・早期治療を可能とする新しい膵がんの診断マーカーの開発が強く求められている。

その一環として、がん組織から血液中に遊離する核酸(DNAやRNA)を検出してがんの診断マーカーとして応用する、いわゆるリキッドバイオプシーの研究が進んでいる。膵がんにおいても、がんに特異的なDNA変異の検出や、これまでに報告した反復配列RNAの定量など、数々の手法が開発され診断マーカーとしての応用が検討されてきた。近年、環状RNAと呼ばれる特殊な形態を持つRNAが、さまざまながんで異常発現することが明らかになりつつある。さらに環状RNAはその構造上の特徴から、通常のRNA(環状ではなく線形)より血液中で安定して存在することが知られており、バイオマーカーとしての応用が期待されてきた。

今回、研究グループは、環状RNAに特異的なRNAシークエンス解析を行い、既知の環状RNAだけでなく既存のデータベースにない新規環状RNAも網羅的に探索し、新しい膵がんのバイオマーカーとしての可能性を検討した。

約4万種類の新規環状RNAを同定、前がん病態の囲い込みにも有用

まず、正常な膵組織および膵がん組織由来のRNAをエクソヌクレアーゼで処理したのち、RNAシークエンス解析によって環状RNAを網羅的に探索した。その結果、膵がん由来のRNAから5万4,000種類、正常由来のRNAからは1万4,000種類の環状RNAを同定した。これらのうち、約4万種類が既存のデータベースにない新規環状RNAであることが明らかとなった。続いて、膵がん組織と正常膵組織における環状RNAの発現量を比較し、12番染色体から転写されている新規環状RNAが膵がんで高発現していることを見出し、さらにその全長配列を同定した。

次に、膵がん組織43例、正常膵組織10例に対してこの新規環状RNAと特異的に結合するプローブを用いてRNA in situハイブリダイゼーションを行い、膵がん組織で新規環状RNAが有意に高発現していることを確認した。さらに、がんの進行度に対応して新規環状RNAが高発現する傾向が認められた。

研究グループは、膵組織を採取するには侵襲の大きい処置が必要となるため、バイオマーカーとしての応用を考慮し、非侵襲的に採取可能な血液から環状RNAを検出できることが必要だと考えた。そこで、前増幅とドロップレットデジタルPCR法を組み合わせたところ、わずか200マイクロリットルの血液から微量の新規環状RNAを検出できることを見出した。次いで、この手法により、膵がん患者20人と健常者20人の血清を用いて新規環状RNAを測定したところ、健常者と比較して膵がん患者で特異的に新規環状RNAが検出された(感度0.45、特異度0.90)。さらに、新規環状RNAは膵がんの前がん病態として知られる膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm:IPMN)を持つ患者10人中6人の血清からも検出され、膵がんの早期診断だけでなく、前がん病態の囲い込みにも有用である可能性が示唆された。

新規環状RNAが膵がんの発がん・進行に関与している可能性

今回の研究成果は、新規環状RNAが膵がんおよび前がん病態の診断マーカーとして応用できる可能性があることを示している。また、前がん病態である膵管内乳頭粘液性腫瘍患者の血清からも検出されたこと、膵がんの進行度に対応して高発現する傾向が認められたことから、膵がんの発がん・進行に関与している可能性が示唆される。

研究グループは、「今後は、バイオマーカーとしての有効性をより多くの症例で検証し臨床応用の可能性を探りつつ、新規環状RNAの異常発現が膵がんの病態にどのように関わるかを解明し、膵がんの克服を目指していきたいと考えている」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか