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日本初の左心耳閉鎖システム「WATCHMAN」発売、NVAFの新たな脳卒中予防治療-ボストン・サイエンティフィック

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2019年09月24日 PM12:00

心原性脳卒中の場合血栓形成の約9割が心臓の左心耳に起因

ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社は9月2日、日本初の左心耳閉鎖システム「(TM)左心耳閉鎖システム」を発売した。同製品の発売に伴い、同社は9月18日に都内でプレスセミナーを開催。同セミナーでは、国立循環器病研究センター心臓血管内科部門不整脈科部長の草野研吾氏と東邦大学医療センター大橋病院循環器内科准教授の原英彦氏が講演した。


画像はボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社
ニュースリリースより

心房細動は、高齢者での罹患リスクが高いため、高齢化に伴い日本国内の患者数が増加傾向にある。また、心房細動を有する患者の約3分の1が脳卒中を発症するとされ、脳卒中発症を抑制するための治療が重要だ。これまでは、抗凝固薬による薬物療法で血栓の形成を予防していたが、出血リスクが高まるという懸念もあった。心房細動により心臓にできた血栓が原因となる心原性の脳卒中の場合、血栓形成の約9割が心臓の左心耳に起因するとされている。その左心耳を閉鎖することで脳卒中を予防する医療機器が、今回発売されたWATCHMANだ。同製品は、抗凝固薬を長期間服用できない非弁膜症性心房細動患者に対して、心房細動による脳卒中を予防する新しい治療の選択肢となる。

ワルファリンとの比較で心血管死/原因不明の死亡52%低減


国立循環器病研究センター心臓血管内科部門不整脈科部長
草野研吾氏

WATCHMANの特長として、左心耳内部への留置に適したデザイン、塞栓を防ぐポリエチレンテレフタレート(PET)フィルターとナイチノール製フレーム、手技時間の短縮と安全性を考慮したデリバリーシステムを採用していることが挙げられる。治療の流れとしては、大腿静脈からカテーテルを通して同製品を左心耳に誘導し、留置。その後、留置した同製品を覆うように内皮化が進み、左心耳が閉鎖するが、患者は左心耳が閉鎖されるまでワルファリンを服用する。手技45日後に左心耳の閉鎖を確認した時点でワルファリンの服用を中止する。こうして閉鎖した左心耳に、血栓が移動することはその後なくなるわけだ。留置の手技は全身麻酔下で行われ、約1時間を要する。留置した患者は、一般的にその翌日から歩行が可能だ。

非弁膜症性心房細動患者1,114名を対象としてWATCHMANと従来のワルファリンとを比較したPROTECT AF試験およびPREVAIL試験の2件のランダム化臨床試験の結果、心血管死/原因不明の死亡はWATCHMANで52%低減(p=0.006)、手技6か月以降の大出血は72%低減(p<0.001)、出血性脳卒中は78%低減(p=0.004)していた。草野氏は、抗凝固薬内服下での出血例や、適切な抗凝固薬内服下での心原性脳塞栓症例など、従来の抗凝固薬で生じていた“ジレンマ”に対して「WATCHMANによる治療が解消に役立つかもしれない」と期待をにじませた。一方で、今後の課題として、WATCHMANによる治療の長期有効性を示すこと、特に直接経口抗凝固薬(DOAC)との有効性の比較などを挙げた。

抗凝固薬を長期間服用できないNVAF患者の新たな脳卒中予防治療として期待


東邦大学医療センター大橋病院循環器内科准教授
原英彦氏

WATCHMANは、以下の3つの項目全てに該当する非弁膜症性心房細動患者を対象に、左心耳に起因する血栓塞栓症のリスクを低減する目的で使用する場合に適応となる。
・CHADS2またはCHA2DS2-VAScスコア※1に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高く、抗凝固療法が推奨される患者
・短期的(45日間程度)にはワルファリン投与が適応可能と事前に医師により判断されている患者
・抗凝固療法を長期間実施できない医学的に妥当な理由を有する患者(HAS-BLEDスコア※23点以上の出血リスクが高い患者など)

禁忌・禁止となる患者は、心臓内(特に心房内)血栓が認められる患者や、左心耳の解剖学的構造が閉鎖デバイスに適応しない患者などだ。特に、左心耳の解剖学的構造は個人差が大きい。「左心耳が小さすぎる、大きすぎるなどして留置に適さない場合もある」(原氏)ため、注意が必要だ。

実施施設基準は、「日本循環器学会認定循環器専門医が2名以上在籍すること」など15項目あり、製造販売業者による施設調査、製造販売業者トレーニングの受講などのステップを経て認定される。製造販売業者トレーニングは、安全な症例実施テクニックのレクチャーや、予定症例の事前検討などを実施後、症例立会いを経て完了する。今回のWATCHMAN発売に伴い、各施設でトレーニングが進行中。抗凝固薬を長期間服用できない非弁膜症性心房細動患者に対する、新たな脳卒中予防のための治療として期待される。

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