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表面型大腸腫瘍の術前生検で粘膜下層に高度の線維化が起こることを証明-大阪市大

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2018年11月02日 PM12:30

診断目的の生検を行うとEMRが困難に

大阪市立大学は10月31日、表面型大腸腫瘍に診断目的の術前生検を行うことで粘膜下層に高度の線維化が起きやすくなることを初めて証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科消化器内科学の福永周生病院講師、永見康明講師らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Gastrointestinal Endoscopy」オンライン版に掲載された。


画像はリリースより

大腸がんは、多くが腺腫などのポリープから発生するため、ポリープを摘除することで大腸がんによる死亡を減らすことができる。腺腫や早期がん(あわせて大腸腫瘍)の多くは、内視鏡的ポリペクトミーや内視鏡的粘膜切除術()で摘除できる。しかし、平たい形をした表面型大腸腫瘍で一括切除が必要と判断され、かつEMRでは対応不可能な場合は、)で対応する。ESDは高周波ナイフを用いた治療法で、理論上、大きさに関わらず一括切除が可能な方法だが、EMRと比べて医療費が高く、高度な技術が必要とされること、穿孔のリスクが比較的高いことから対応可能な病院が限られている。

表面型大腸腫瘍では、初回の下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)で発見された際に診断目的の生検を行うと、EMR時の局注で病変が持ち上がらなくなり(non-lifting sign)、EMRが困難となる。よって、日本消化器内視鏡学会の大腸ESD/EMRガイドラインでは、診断目的の生検はしないことが望ましいとされている。Non-lifting signは、腫瘍直下の粘膜下層の線維化が原因とされているが、その詳細はよくわかっていなかった。

生検群と未生検群で治療成績に差は見られなかったが…

研究グループは、表面型大腸腫瘍の代表である側方発育型腫瘍(LST)を対象とし、生検を受けた患者は受けていない患者より粘膜下層の高度な線維化が多いのではないかと仮定。2005年からの10年間で、同大学医学部附属病院でESDを受けたLSTのうち、術前生検を受けた患者136人と受けていない患者259人を対象とし、粘膜下層の高度線維化率や治療成績の比較を実施。生検の有無がESDの治療成績にどの程度影響するかについても検証した。

その結果、ESD中に確認できた粘膜下層の高度線維化率は、生検群が20.6%、未生検群が13.9%であり、統計学的な有意差を認めなかった。しかし、患者背景を揃えて解析する方法を用いると、高度線維化率は生検群が20.6%、未生検群が11.0%となり、生検群の高度線維化率が有意に高い結果だったという。生検は高度線維化に対する有意な危険因子であることがわかり、患者背景を揃えた別の解析方法でも同様の結果を得た。一方、両群の実際の治療時間、一括切除率、合併症などの治療成績では差を認めなかったという。

今回の研究結果より、表面型大腸腫瘍に対する生検は、高度線維化の原因となり得ることが明らかになり、大腸ESD/EMRガイドラインのコメントを支持する根拠が得られた。また、生検群と未生検群でESDの治療成績に差がなかったことから、なんらかの理由でやむを得ず生検を受けた患者においては、ESDが第一選択となる根拠のひとつになるという。研究グループは「EMRの可能な表面型大腸腫瘍には生検を控えるべきであり、生検を受けた病変はESDが第一選択となりうるため、今後の治療ガイドライン改定に寄与しうると考えている」と述べている。

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