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脳梗塞の組織壊死部分を早期に検出できるMRI画像解析法を開発-国循

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2018年05月24日 PM12:45

t-PA使用基準は虚血性脳卒中発症後4.5時間以内

国立循環器病研究センターは5月22日、独自に開発したマウス脳梗塞モデルと最新の7テスラ小動物用MRIを用いて、これまでで最も早期に虚血性脳卒中発症後の不可逆的組織変化(脳組織が壊死した箇所)の検出に成功したと発表した。この研究は、国循研究所分子病態部の柳本広二疾患分子研究室長、画像診断医学部の飯田秀博元部長、病院脳神経外科の高橋淳部長、大阪大学医学部および洛和会音羽病院と共同で行ったもの。研究成果は、専門誌「Molecular Neurobiology」に掲載された。


画像はリリースより

脳梗塞による死亡の回避や後遺症の軽減のためには、発症後早期に血管の詰まりを解消し血流を再開させること(再灌流療法)が必要だ。現在日本で承認されている再灌流療法には、血栓を溶かすアルテプラーゼ静注療法()と、特殊な機器で血栓を取り除く血管内治療がある。t-PA静注療法では、急激に血流量が増加することから、脳組織が壊死してしまうと傷ついた血管から出血するリスクが高まる。現在、脳組織の壊死を早期に検出する画像診断法は確立されていないことから、t-PA使用基準は過去の臨床経験から全世界一律で「虚血性脳卒中発症後4.5時間以内」とされている。

この基準は最重症の症例から類推したものだが、脳組織の壊死が始まっているかどうかを正確に判断する方法があれば、より安全かつ積極的にt-PA使用が可能になると考えられる。そのため、脳組織の壊死の出現を早期に察知できる新たな画像診断法の確立が望まれている。

EDC法により、壊死の有無や発生の瞬間を高精度に判断

急性期脳梗塞の画像診断には、MRIが用いられる。MRIは、条件を変えることでさまざまな画像を撮影することが可能になる。研究グループは、新たに開発した計算手法を「」と名付け、従来の撮影方法であるT2強調画像やADCマップの画像と比較。撮影対象は国循が独自に開発した脳梗塞モデルマウス「3-VO(3血管閉塞)マウス」で、虚血性脳卒中発生直後より10時間連続撮像を行い、その間に得られたさまざまな脳領域でのMRIシグナル変化を、発症から24時間後に取りだした3-VOマウスの脳の組織診断の結果と比較した。3-VOマウスとは、他の脳梗塞の病態再現モデルで多く見られる「発症後の死亡率」が極めて低く、大小ばらつきの少ない皮質型脳梗塞を全例に出現させることを可能としたオリジナルモデルのこと。

その結果、従来の撮影・計算方法では脳組織の壊死の始まり(不可逆的となった組織の変化)を捉えることができなかったが、EDC法では虚血発症後5時間15分後に虚血状態の強い箇所における急激な細胞性浮腫の増強を捉えることができたという。虚血状態発症から24時間後に取りだした脳と比較すると、顕著な細胞性浮腫(/EDC所見)を示した部分と壊死が発生した部分が一致。また、発症から壊死が開始するまでの時間も、t-PAの使用限度である4.5時間を超え、6時間後までに行われた「遅れたt-PA静注療法」が、出血性合併症を適正使用の場合の2倍以上に増加させるとの臨床経験から得られた事実に一致していた。以上のことから、EDC法により壊死の有無や発生の瞬間を高精度に判断できることが明らかになったとしている。

EDC法は、現在あるMRIの機器で応用可能であるため、今後は企業との共同研究を呼びかけ、全てのMRIで簡易にEDC値を求めることのできるマッピングソフトの開発および実臨床での精度の確認を目指すとしている。

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