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脂肪を燃焼させる褐色脂肪組織をリアルタイムに可視化する方法を開発-産総研

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2017年03月27日 PM12:00

カーボンナノチューブを用いて褐色脂肪組織を選択的造影

産業技術総合研究所は3月21日、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)をプローブとして用いた褐色脂肪組織(BAT)の近赤外蛍光造影法を開発したと発表した。この研究は、産総研ナノ材料研究部門の湯田坂雅子招へい研究員、片浦弘道首席研究員が、国立国際医療研究センター研究所疾患制御研究部幹細胞治療開発研究室の佐伯久美子室長、北海道大学大学院獣医学研究科比較形態機能学講座の岡松優子講師、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の石原一彦教授と共同で行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」に3月20日付けで掲載されている。


画像はリリースより

最近、メタボリックシンドロームによる健康障害が急増する中、脂肪を燃焼させる組織である褐色脂肪組織に関する研究が進んでいる。特に褐色脂肪組織の活性化が期待されており、未知な部分が多い褐色脂肪細胞に関する基礎研究と、その活性化手法の研究が精力的に行われている。これらの研究では、動物実験で褐色脂肪組織を非侵襲で観察することが、解剖による動物への苦痛を軽減し、使用する動物数を減らすという点からも重要だ。しかし、従来の観察手法は大型で高価な、放射性同位元素を用いるPET-CTのみだった。

一方で、生体透過性の高い近赤外光を用いて小動物の体内を非侵襲的に造影する手法があり、近赤外光により高効率で発光する半導体型SWCNTが蛍光材料として注目されている。しかし、特定の生体組織を選択的に造影する技術はなく、血管造影や臓器の造影に使われるのみだった。

リアルタイムで高解像度高輝度蛍光造影

研究グループはこれまでに、蛍光の発光効率が高いSWCNTを効率良く分離する技術を開発、従来の100倍の感度でマウスの血管を造影できることを示している。今回、生体親和性の高い分散剤のMPCポリマーの一種であるPMBで表面を被覆したSWCNT(PMB-SWCNT)が、マウスの褐色脂肪組織に選択的に沈着することを発見した。これは、まずPMB-SWCNTが血中にあるアポリポタンパク質を取り込み、血流によって体内を循環するうちに、褐色脂肪組織の毛細血管内皮細胞にあるアポリポタンパク質受容体に選択的に沈着するためであるという。沈着したPMB-SWCNTをプローブとして近赤外蛍光イメージングを行うことで、褐色脂肪組織を選択的に造影可能だ。また、SWCNTは発光効率の高い半導体型SWCNTを高純度に分離精製して用いているため高感度であり、少量のPMB-SWCNTで鮮明な近赤外蛍光イメージングができ、生体への負荷を抑えることができるという。

今回の技術では、波長730nmの高輝度LED光をマウス全体に照射して、PMB-SWCNTが発光する蛍光のうち1,000nm以上の波長の近赤外光だけを近赤外カメラでイメージング。PMB-SWCNTをマウスの尾の静脈に投与し、近赤外蛍光イメージングを行うとすぐに褐色脂肪組織が鮮明に造影されはじめるという。従来に比べて極めて簡便な装置で褐色脂肪組織の選択的な造影が高感度、高解像度で行え、安価にマウスの褐色脂肪組織を非侵襲で観察できるようになり、さらにはリアルタイム観察が可能であるため、蛍光染色された褐色脂肪組織の選択採取が可能となる。さらに、採取した組織の蛍光顕微鏡観察も可能であり、褐色脂肪組織の研究、特に活性化手法の研究への貢献が期待されると、同研究グループは述べている。今後はメタボリックシンドロームの予防・治療法研究の動物実験で、PMB-SWCNTが活用されることを目指し、PMB-SWCNTのサンプル提供を進めるとともに、共同研究を進めていく方針としている。(大場真代)

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