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損傷した末梢神経を包んで治す、ナノファイバーメッシュを開発-阪大ら

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2017年03月06日 PM02:00

神経再生に効果のあるビタミンB12を、患部に直接作用させるデバイスの開発

大阪大学は2月27日、損傷した末梢神経に直接巻いて再生を促進し、機能を回復できるメッシュを開発したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科整形外科学の田中啓之助教と、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点メカノバイオロジーグループの荏原充宏MANA准主任研究者らの研究チームによるもの。研究成果は「Acta Biomaterialia」誌のオンライン版に掲載された。


画像はリリースより

外傷などで末梢神経が損傷されると、運動麻痺や感覚麻痺および自律神経の障害などがおこる。末梢神経損傷には、損傷部が完全に切断された不連続性神経損傷と、損傷部での連続性が保たれた有連続性神経損傷があり、不連続性損傷に対する治療としては、切断部を直接縫合する方法や、体の他の場所の神経を採取して移植する方法が一般的だ。一方で、有連続性神経損傷では、神経を圧迫している組織を剥離する神経剥離術や保存治療が選択される。

末梢神経損傷に対する医療機器として、これまで人工神経が開発されているが、それらは損傷部を単に橋渡しするだけであり、神経の再生速度を促進する効果はなく、さらに神経の連続性が完全に断たれている場合にのみ適応されているため、使用できる患者数が限られていた。また、ビタミンB12に神経再生効果があることはわかっていたが、経口投与ではあまり効果がなく、患部に直接投与できるデバイスも存在しなかった。そのため、患部にビタミンB12を直接作用させて神経の再生を積極的に促進し、患者数が多い有連続性神経損傷に対しても使用可能なデバイスの開発が望まれていた。

モデルラットで運動機能と感覚機能の回復に成功

今回、研究チームは、損傷した神経を直接包み、局所でビタミンB12を修復まで放出しつづけられる特殊なメッシュを開発。メッシュの繊維サイズを数百nmまで細くし、結晶化度を下げるなどの工夫により、神経に直接巻きつけることが可能なほど柔軟な素材となったという。さらに、このメッシュは、生分解性プラスチックでできており、最終的には体外に排出される仕組み。実際にこのメッシュを坐骨神経損傷ラットに移植したところ、術後6週間で神経の軸索が再生され、運動機能と感覚機能の回復が確認されたという。

今回開発されたメッシュは、これまでに例を見ない有連続性末梢神経損傷に対する治療デバイスになると期待される。人工神経は年間数百例程度の使用実績だが、このメッシュは、手根管開放術、神経縫合術、神経交差縫合術、神経剥離術、神経移行術、神経移植術に使用可能となり、適応可能年間手術件数は4~5万件となるため、人工神経と比較して市場性は格段に大きいという。研究チームは現在、製薬会社等と共同で、手根管症候群などの末梢神経障害の治療デバイスとしての臨床応用を協議中としている。

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