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運動効果の個人差に、肝臓ホルモン「ヘパトカイン」が関係することを解明-JST

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2017年03月02日 PM12:00

運動を行ってもその効果を無効にする「運動抵抗性」

(JST)は2月28日、肝臓から分泌されるホルモンのひとつが骨格筋に作用することで、運動を行ってもその効果を無効にする「運動抵抗性」という病態を起こしていることを発見したと発表した。この研究は、金沢大学医薬保健研究域医学系の金子周一教授、篁俊成教授および御簾博文准教授らが、同志社大学、、アルフレッサファーマ株式会社の研究グループと共同で行ったもの。同研究成果は、米国の総合医学雑誌「Nature Medicine」オンライン版に2月27日付けで掲載されている。


画像はリリースより

近年日本では、身体活動量の低下などの生活習慣の変化に伴って、2型糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病が急増している。運動はこれらの疾病の予防・治療につながるため、定期的な運動は「」として推奨されているが、運動療法の効果にはかなりの個人差があり、運動してもあまり健康増進効果が出ない人がいることが問題となっていた。

これまでに研究グループは、肝臓で産生される分泌タンパクのひとつであるセレノプロテインPの血中濃度が2型糖尿病の患者で高まっていること、セレノプロテインPがインスリン抵抗性を起こして血糖値を上昇させることを報告。肝臓から分泌されるホルモンで、血液を介して全身でさまざまな作用を発揮するものを総称して「ヘパトカイン」と呼ぶことを提唱してきた。しかし、セレノプロテインPが運動の効果に与える影響は明らかになっていなかった。

さまざまな生活習慣病に対して、新しい「運動効果増強薬」の開発なども

研究グループは、マウスや培養筋細胞を用いた実験および臨床研究を行うことによって、セレノプロテインPが運動の効果に与える影響を検討。その結果、過剰なセレノプロテインPが、受容体であるLRP1を介して筋肉に作用することで、運動したにもかかわらずその効果を無効にする「運動抵抗性」という病態を起こすことを見出した。

また、セレノプロテインPを生まれつき持たないマウスでは、同じ強さ・同じ時間の運動療法を行っても、通常のマウスと比べて運動のさまざまな効果が倍増することが判明。さらに、健常者を対象にした臨床研究から、血液中のセレノプロテインPの濃度が高かった人は低かった人に比べ、8週間の有酸素運動トレーニングを行っても運動の効果が向上しにくいことがわかったという。

セレノプロテインPの血中濃度は、2型糖尿病や脂肪肝の患者、高齢者で上昇していることが報告されている。このような人々は、セレノプロテインPが過剰に存在するために、運動を行ったにもかかわらず、その効果が起こらないという病態が身体の中で生じている可能性がある。今後、セレノプロテインPの肝臓での産生を抑える薬や、筋肉での受容体であるLRP1に拮抗する薬を探すことで、運動の効果を高める「運動効果増強薬」の開発につながることが期待される。また、血液中のセレノプロテインP濃度を測ることで、運動の効果の出やすい人、出にくい人を事前に予測できるようになる可能性もあると研究グループは述べている。

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