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緑色蛍光タンパク質の回転速度、細胞内での計測に成功-北大

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2016年08月10日 PM01:30

数十ナノ秒程度の時間領域で緩和される回転拡散まで検出

北海道大学は8月8日、従来は検出器によるノイズに隠されて測定が難しかった数十ナノ秒程度の時間領域で緩和される回転拡散まで検出し、緑色蛍光タンパク質()の詳細な回転拡散の測定に成功したと発表した。この研究は同大学大学院先端生命科学研究院細胞機能科学研究室の大浦真修士課程2年生、山本条太郎特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」オンライン版に8月4日付けで掲載された。


画像はリリースより

細胞内部における分子の運動は、現在まで、主に蛍光相関分光法という分子分光手法を用いて計測されてきたが、その対象は並進運動(並進拡散)に限られており、ナノ秒という非常に速い時間領域で起こる現象である分子の回転運動()は、装置の性能不足や計測可能な試料が少なかったことから、あまり行われてこなかった。これまでの回転拡散の研究は、核磁気共鳴法や一分子計測法などの大掛かりな装置を必要とし、細胞内での応用が難しい手法を用いたものに限られていた。

研究グループは、共焦点蛍光顕微鏡に偏光光学素子を導入して偏光蛍光相関分光法(Pol-FCS)装置を構築し、ノイズ信号を除去するため蛍光検出器として2台のアバランシェ・フォトダイオードを利用。高速領域の蛍光のゆらぎを測定するために、高速で信号解析を行うことができるハードウェア相関器を実装し、各試料の測定を行った。タンパク質の多量体形成のモデルとしてEGFPが複数個連なったタンパク質(EGFP多量体)を新しく設計し、それぞれにおいて回転拡散の計測を行った。今回は蛍光励起光源として連続発振レーザー(CWレーザー)を用いており、従来のパルス発振レーザーを用いた時間分解蛍光測定に比べ、コストの面でも安価かつ高速に測定できる。

タンパク質多量体化モデルである多量体EGFPの計測にも成功

その結果、精製および細胞破砕液内、生きている細胞内で蛍光タンパク質EGFPの回転拡散が計測できることを世界で初めて実証し、さらにタンパク質多量体化モデルである多量体EGFPの計測にも成功した。多量体EGFPの計測では、多量体の量体数が増えるにしたがって回転拡散成分の現れ方が変化する現象が確認された。この現象の原因が多量体EGFPに含まれる個々のEGFPの向いている方向の乱雑さに関係すると予想し、その実証のためにモンテカルロ法を用いてコンピューターシミュレーションを行ったところ、実際に分子の配向が乱雑になるとPol-FCSにおける回転拡散成分の現れ方が変化することも実証された。

回転拡散は分子の多量体化に対する感度が従来の計測手法で得られる並進拡散より高いため、その高感度さを利用して、神経変性疾患関連タンパク質の多量体化や外部刺激によるレセプターの多量化を高感度にし、生きている細胞内で計測できることが期待される。この試みにより、生体分子のin situでの状態をより正確に議論できるデータが得られると考えられると、研究グループは述べている。

研究グループはすでに、大阪大学や情報通信研究機構との共同研究で、超伝導ナノワイヤ単一光子(SSPD)の開発にも成功しており、今後はこれらを組み合わせることで、さらに簡便・高感度なタンパク質の回転拡散の検出方法を開発していく予定。

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