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早老症ウェルナー症候群の細胞からiPS細胞の樹立に成功-広島大ら

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2014年11月20日 PM03:00

日本人症例が多く、根本的治療法がない早老症ウェルナー症候群

広島大学は11月10日、同大大学院医歯薬保健学研究院 嶋本顕准教授と田原栄俊教授のグループが、千葉大学大学院医学研究院・医学部附属病院、東京女子医科大学東医療センター、がん研究会がん化学療法センター、鳥取大学、慶應義塾大学らとの共同研究で、ヒト遺伝病である早老症ウェルナー症候群の患者の線維芽細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を樹立することに成功したと発表した。この研究成果は、「」オンライン版に11月12日付で掲載されている。


この画像はイメージです

ウェルナー症候群は日本人の症例も多いことで知られるが、根本的治療法はなく、対処療法が主な治療法となっている。近年の薬物治療の進歩等により、患者の平均寿命は延長されているが、重篤な皮膚潰瘍による痛みや下肢切断などQOLに大きな課題があり、根治を実現する治療法の開発が求められている。

治療薬のスクリーニングや老化機序の解明にも期待

研究グループは、まずiPS細胞の樹立実験でスタンダードに用いられる山中4因子をウェルナー症候群患者線維芽細胞に導入し、iPS細胞を樹立した。この細胞は2年以上にわたる継代を繰り返しても、正常なiPS細胞と同様の未分化性と多能性を維持し、患者線維芽細胞の短い分裂寿命を完全に克服していることが確認されたという。

ウェルナー症候群患者線維芽細胞では、WRNヘリカーゼタンパク質の異常によるテロメアの機能不全が見られ、これにより分裂寿命の短縮が起きている。しかしiPS細胞では、線維芽細胞では発現していなかったテロメア延長酵素(テロメラーゼ)の働きが確認されており、この機能不全が抑制されて、分裂寿命が回復されたと考えられている。

またウェルナー症候群細胞では、細胞周期抑制因子のp21やp16、SASPサイトカイン、細胞外マトリクス分解酵素等、老化関連遺伝子の発現上昇が早期から見られるが、樹立したウェルナー症候群iPS細胞では、これらの老化関連遺伝子は正常iPS細胞と同程度に抑制されており、老化が進んだ細胞からの若返りが実現できたといえるとしている。

加えて、ウェルナー症候群患者の線維芽細胞では、テロメア機能不全による染色体異常も高頻度で確認されるが、ウェルナー症候群iPS細胞では、120回以上継代を重ねても、そうした異常が高頻度に発現することはなかったという。

研究グループでは、このウェルナー症候群iPS細胞樹立により、患者からの提供が困難な膵臓等の内分泌系細胞や血管細胞をこのiPS細胞から作り出すことが可能となり、治療薬スクリーニングや移植医療への応用が期待されるとしている。また、老化の機序解明にも寄与する可能性があり、今後のさらなる展開が注目される。

▼外部リンク
広島大学 プレスリリース

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