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ネオセルフ抗体陽性の不妊症、抗凝固治療でART妊娠率3.3倍向上-山梨大ほか

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2025年12月10日 AM09:00

不妊の原因となる「ネオセルフ抗体」、ART治療成績との関係は不明だった

山梨大学は11月25日、体外受精・胚移植(ART)を受ける不妊症患者において、ネオセルフ抗体を測定し、低用量アスピリンによる抗血小板治療やヘパリンによる抗凝固治療を行った抗体陽性の患者では、妊娠率や生児獲得率が改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院総合研究部医学域の小野洋輔臨床助教、大木麻喜助教、吉野修教授、医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院不育症センターの山田秀人センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

少子化が加速する日本において、不妊症に対する治療成績の向上は必須課題である。ART治療を受ける不妊患者の中で、良好な受精卵を繰り返し子宮内膜に移植しても妊娠が成立しない難治性不妊は「反復着床不全」と呼ばれている。反復着床不全に対する治療法の開発は急務だが、有効な治療法は確立していない。

「ネオセルフ抗体(抗β2GPI/HLA-DR抗体)」は、血栓症や流産、妊婦の生命を脅かす妊娠高血圧症候群などを引き起こす「抗リン脂質抗体症候群」の原因となる新たな自己抗体として2015年に発見された。これまでの研究によって、ネオセルフ抗体は流産を繰り返す不育症や習慣流産、妊娠高血圧症候群および胎児発育不全の原因であることが示されている。

研究グループは、ART治療を受ける不妊症患者の15.5%、反復着床不全患者(胚移植を3回以上施行しても妊娠が成立しない場合と定義)の28.9%でネオセルフ抗体が陽性であることを報告している。しかし、抗体陽性者のその後の妊娠予後や治療法については明らかにされていなかった。そこで今回の研究では、抗体陽性のART患者の妊娠帰結や、どのような治療が妊娠率の向上と関係しているかについて調査した。

抗体陽性群は着床率・妊娠率ともに低い傾向、生児獲得率・流産率には差なし

同研究は、2020年7月~2023年7月に、山梨大学医学部附属病院および手稲渓仁会病院でARTを予定した不妊女性153人を対象に、血液中のネオセルフ抗体を測定し、陽性群と陰性群で妊娠成績を比較した。抗体陽性の30人(延べ69回の胚移植)と抗体陰性の123人(延べ211回の胚移植)が解析の対象となった。

抗体陽性群では反復着床不全患者の割合が26.7%で、抗体陰性群の11.4%よりも割合が高く、先行研究の結果と一致していた。また、抗体陽性群において、胚移植1回あたりの臨床妊娠率は30.4%と、抗体陰性群の43.6%よりも低い傾向が見られた。さらに、陽性群の移植胚1個あたりの着床率は26.3%と、陰性群の39.0%よりも低下していた。生児獲得率や流産率に関しては、両群で差は見られなかった。

抗凝固治療により、抗体陽性患者の臨床妊娠率・生児獲得率が有意に改善

治療効果について、抗体陽性患者において低用量アスピリンや未分画ヘパリンによる抗凝固治療を行った症例と、これらの治療をしなかった症例を比較した。その結果、治療あり群では胚移植1回あたりの臨床妊娠率が42.9%/生児獲得率が37.1%で、治療なし群のそれぞれ17.6%/11.8%に比べて、ともに有意に高いことがわかった。

さらに、低用量アスピリンや未分画ヘパリン治療と臨床妊娠率との関連を調べるために多変量解析を行ったところ、これらの治療を実施した抗体陽性患者では、妊娠率が3.3倍高く、治療効果が確認された。

抗体陽性患者の子宮内膜にネオセルフ抗原を確認、着床異常への関与示唆

また、ネオセルフ抗体の標的となるネオセルフ抗原が子宮内膜に存在するかを調べるために、抗体陽性患者の子宮内膜組織について蛍光免疫染色を行った。その結果、β2GPIとHLA-DRが、特に上皮細胞上に協調して発現することがわかった。

基礎研究のデータから、ネオセルフ抗体は血栓形成への関与や細胞障害性が報告されている。これらを含めて考えると、ネオセルフ抗体は子宮内膜に何らかの形で作用する可能性が示唆されるため、そのメカニズムについて今後さらに検討する必要がある。

今後の課題は、より大規模なコホート研究による検証と作用機序の解明

今回の研究から、ネオセルフ抗体の測定が着床不全患者の治療成績の向上につながる可能性が示唆された。一方で、この研究は観察研究であり、抗体陽性と治療効果の因果関係を示すには至っていない。対象患者が少なかったことも含めて、より大規模なコホート研究の実施と、着床不全におけるより詳細なネオセルフ抗体の関与メカニズムや抗体陽性者に対するアスピリンやヘパリンの作用機序の解明が求められる。

「これらが明らかになれば、抗体陽性者に妊娠前から抗血小板治療や抗凝固治療を行うことで、妊娠率や生児獲得率を改善させる効果を示すことができる。将来的に、不妊症でネオセルフ抗体を測定することが、個別化治療やプレコンセプションケアにつながると考えている」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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