複数の腎疾患に関与するケモカイン「CCL5」、慢性腎臓病との関連を検討
千葉大学は10月7日、ケモカインであるCCL5の慢性腎臓病における相反する役割を発見し、慢性腎臓病が進行するメカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の淺沼克彦教授、木村元子教授、那須亮講師、医学薬学府博士後期課程のIka N. Kadariswantingshi氏(研究当時)、奥永一成氏、山崎佳穂氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」にオンライン掲載されている。

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腎臓の機能が悪化していく病気を慢性腎臓病というが、その進行にはタンパク尿が関わっていることが知られている。腎臓は、血液から老廃物を取り除き、尿として排出する働きを持っている。そのろ過の中心的な役割を果たすのが、「糸球体」と呼ばれる毛糸玉のような毛細血管の塊である。この糸球体には「糸球体足細胞(ポドサイト)」という特殊な細胞があり、フィルターの最終バリアとして通常はタンパク質が尿に漏れないよう守っている。慢性腎臓病では、糸球体が傷つくことでポドサイトも障害を受け、血液中のタンパク質が尿へと漏れ出すようになる。これがタンパク尿である。そして、糸球体の数が減るにつれて、腎臓の機能も低下していく。
しかし、この慢性腎臓病を促すメカニズムはいまだ十分に理解されておらず、効果的な治療法も限られている。そのため、ポドサイトの損傷や炎症を制御する原因分子を特定することは、効果的な治療薬開発に不可欠である。
研究グループは、さまざまな炎症性疾患に関与するケモカインというタンパク質であるCCL5に着目した。このCCL5は、複数の腎疾患に関与していることが知られているが、ポドサイトの損傷および修復に対するCCL5の働きについては、不明な点が多く残されている。そこで研究グループは、CCL5の慢性腎臓病進行への役割を検討した。
ポドサイト障害にはCCL5が保護的に働く
研究の結果、慢性腎臓病を引き起こすようなさまざまなヒト腎疾患のポドサイトにおいて、CCL5が多く発現していることがわかった。また、培養したポドサイトにCCL5を加えることでポドサイト障害が軽減することも判明し、CCL5はポドサイト障害に保護的に働くことがわかった。
CCL5欠損マウスで腎障害軽減、マクロファージ介した病態進行メカニズム判明
一方、CCL5がないマウスに慢性腎臓病を引き起こすと腎障害が悪化すると予想されたが、実際には腎障害が軽減した。この予想外の結果から、CCL5は、腎障害時に糸球体に浸潤してくる免疫細胞(マクロファージ)を介して障害を悪化に導くと考え、普通のマウスにCCL5がないマウスの免疫細胞を骨髄移植し、そのマウスに慢性腎臓病を引き起こしてみた。そうすると、そのマウスの腎障害は軽減した。さらに、CCL5のマクロファージに対する役割は、抗炎症性マクロファージ(M2)よりも炎症性マクロファージ(M1)を増やすことによって腎障害を悪化させることもわかった。
CCL5の相反する2つの作用、詳細解明により新治療薬開発につながると期待
今回の研究では、CCL5がポドサイトに対しては保護的に、腎臓のマクロファージに対しては炎症を悪化させる方向に働くことがわかった。「今後は、CCL5の個々の細胞における作用を詳細に解明することで、慢性腎臓病の新たな治療薬を見つけることができると考えられる」と、研究グループは述べている。
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