オシメルチニブと心不全リスクの関連、十分に検証されていなかった
岡山大学は10月6日、非小細胞肺がんの治療薬であるオシメルチニブを使用した患者では、心不全で入院する可能性が高まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院薬剤部の建部泰尚薬剤師、田中雄太副薬剤部長、同大学術研究院医療開発領域薬剤部の座間味義人教授(岡山大学病院薬剤部長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC: CardioOncology」に掲載されている。

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肺がん治療は大きく進歩し、オシメルチニブはEGFR遺伝子変異を持つ非小細胞肺がんで標準的に使われている。一方で、がん治療に伴う心臓への負担(心毒性)が注目されており、中でも心臓の機能が低下しさまざまな症状が生じる「心不全」は、患者の生活や治療継続に影響しうる重要な合併症である。
これまでオシメルチニブによる治療と心不全発症の関連を示す研究はあったが、患者背景を十分に考慮して直接比較したデータは限られており、まだ十分な検証がされていないのが現状だった。
オシメルチニブにより心不全入院のリスク上昇、大規模データ解析で判明
今回の研究では、全国規模の医療データベースを用いて、2008年4月から2021年12月に肺がんに対する薬物治療を受けた患者を解析した。オシメルチニブで治療された1万1,391人と、他の治療(他のEGFR阻害薬、ALK阻害薬、化学療法など)を受けた10万8,144人を比較し、治療中に「心不全が原因となる入院」を指標に安全性を評価した。
その結果、オシメルチニブ群では心不全入院の頻度が1,000人年あたり9.9件、対照群では同4.1件と、オシメルチニブ群で高いことが明らかになった。心不全はさまざまな要因で発症・悪化するが、オシメルチニブによる心不全入院のリスクを詳しく推定する解析でも、オシメルチニブ群で心不全入院の相対リスク上昇が一貫して示された。
高齢者や心不全・高血圧などを有する患者はさらに高リスク
また、オシメルチニブ群の中でも65歳以上の高齢者、心不全、高血圧、心房細動、慢性腎臓病といった疾患を治療前に有する患者は、心不全入院の可能性がより高い傾向が認められた。なお、同研究は観察研究であり、薬剤が直接の原因と断定するものではないが、治療をより安全に続けるために定期的な心機能の確認が有用であることを示唆する結果といえる。
オシメルチニブ治療では継続的な心機能検査が重要
今回の研究によって、大規模データを用いて、オシメルチニブを使用している患者で心不全による入院率が相対的に高いことが明らかになった。この研究結果は、オシメルチニブ治療中には定期的な心機能検査を行うことが大切であることを示している。過去の研究では、薬の副作用による心臓の機能低下は、早期発見・早期治療により改善可能であることが示されており、特に高齢者や高血圧、心房細動などの基礎疾患のある患者では、継続的な心機能検査がオシメルチニブによる心不全の重症化の回避や早期対応につながる可能性がある。
「EGFR陽性の非小細胞肺がん治療薬であるオシメルチニブは、今後も多く使用されることが予想されるが、心臓の副作用に注意しながら使用していくことが大切だ」と、研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース


