大腸がん肝転移病変、外科的切除の判断基準は不明瞭だった
国立がん研究センターは9月30日、薬物療法後に消失した大腸がん肝転移病変の画像診断と術後診断の一致率は62.5%であったと発表した。この研究は、同センター中央病院が支援する日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)と、European Organisation for Research and Treatment of Cancer(EORTC)の国際共同研究によるもの。研究成果は、「JAMA Surgery」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
大腸がんは、日本では罹患数が最も多いがんであり、欧州でも2番目に罹患数が多いがんである。臓器転移がない場合には、外科的切除と病期によって薬物療法を組み合わせた治療が標準治療として行われる。転移頻度が最も高い臓器は肝臓であり、初診時の大腸がん患者の約10~25%に転移が見られる。肝転移病変が切除可能な場合、外科的切除は根治が期待できる唯一の治療法である。
近年では薬物療法の進歩より、転移個数が多い場合やサイズが大きく外科的切除不能の場合でも、先に薬物療法や分子標的治療薬等を用いて腫瘍を縮小させることで切除可能となるケースが増えており、欧州で約40%、日本では約20%の割合で、当初切除不能とされていた肝転移が切除可能となったと報告されている。しかしながら、肝転移病変に対する外科的切除は技術的に難しく、侵襲も大きいため、患者にとって身体的負担が大きいという課題がある。また、薬物療法後には画像上病変が消失することがあるが、その病変を完全に消失したものとし、切除対象から外すべきか、あるいは腫瘍細胞が残存しているものとして切除すべきかについては、専門家の間でも意見がわかれており、現時点では科学的に明確な検証はなされていない。
病変の消失を画像で正確に選別した上で、切除の必要性を判断することができれば、患者への過剰な負担を避け、治療成績の向上を期待できる。また近年、画像診断の向上により、がん細胞の有無を高い確率で検出できる可能性を示す後ろ向き研究の報告もあったことから、治療の適正化を目指して今回の研究を実施した。
日欧米の患者233人を対象に、術前画像診断と術後診断の一致率を検証
今回の研究は、JCOGとEORTCとが初めて共同で行った国際共同臨床研究で、欧州3か国から6施設、日本からは13施設、また米国からも2施設が参加した。
研究では、肝転移のある大腸がん患者で、転移した病変が切除不能または切除不能境界(切除可能か判断が難しい状態)と診断された日欧米の患者233人を対象とした。このうち薬物療法後に画像診断で病変が消失し外科手術が行われたのは109人で、CT上で296病変(57人)の消失を確認した。さらに、296病変(57人)のうち、203病変(45人)はMRI上でも消失を認められ、その中で画像の撮影条件などを満たした152病変(45人)が解析に使用された。また、CTでは消失したがMRIで確認できる病変が93病変(12人)であった。
研究グループは、これら画像上消失した評価対象の病変について、外科的に切除された場合は病理学的な腫瘍細胞の有無を調べ、外科的に切除されず経過観察となった場合は術後2年間での再発の有無を画像検査で評価することで、画像診断と術後の診断との一致率を確認した。
CT・MRI併用での一致率は62.5%、腫瘍有無の完全予測は困難
結果、それぞれの一致率は、CTのみで消失を確認した場合は52.9%で、CTとMRIの両方で消失を確認した場合は62.5%、CTでは消失したがMRIでは確認ができた場合は33.3%であった。術中に造影超音波を使用した場合、一致率は73.7%まで上昇した。CTとMRIで共に消失を確認した病変の手術前の直径は中央値で3cmであった。
消失病変の全切除は必須でない可能性、再発抑制・生存期間への寄与は限定的
またサブグループ解析において、画像上で消失病変が見られた45人の患者を対象に、消失病変をすべて切除した場合と、1つ以上切除せず残した場合の無再発生存期間を調べた結果の中央値は、11.4か月と7.6か月(生存期間中央値はどちらの場合も未到達)で、切除することが必ずしも再発抑制や生存期間延長に寄与しない可能性があることがわかった。
画像上で病変消失しても精密な肝切除計画と慎重な経過観察が重要
これまでの後ろ向きの報告では、外科的切除前の画像診断にて消失病変の腫瘍の有無を正しく予測できる割合は33~80%といわれていた。今回の研究では、専門家による詳細な撮影条件の規定および画像の品質管理が行われた状況下でMRIを実施することにより、腫瘍の有無を高い精度で検出できることが期待されたが、実際の結果は62.5%にとどまった。
画像上病変が消失したことを根拠に当該病変部位の切除を控えると、画像上検出できない残存病変により治癒の可能性を低下させてしまうおそれがある。一方で、画像上消失した病変部位を無理に全て切除しても治療成績の向上にはつながらない可能性も示されている。今回の結果は、さまざまな診療科の医師が複数で治療計画を十分に話し合い、精密な肝切除計画と慎重な経過観察によって患者の不利益を回避することが重要であることを示している。
「今後、精密な肝切除計画と慎重な経過観察を実現するためには、さらに精度の高い診断技術とより有効な術前薬物療法の開発が求められる。なお、本研究はEORTCとJCOGの両研究グループ間で密に連携したことにより完遂することができた。特に研究開始にあたり、JCOGに所属する医師がEORTCの中央支援機構に2年間参画し、両研究グループの橋渡し役を務めたことが成功の大きな一因となった。今後も継続的に人事交流を行うことで、国際共同試験の基盤強化と発展につなげたい」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立がん研究センター プレスリリース


