ステロイド治療が中心の口内炎、より安全で効果的な治療法の開発が求められる

広島大学は9月29日、口内炎に対するスギナエキスの創傷治癒および鎮痛効果を明らかにし、また、スギナエキスによる鎮痛作用のメカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科口腔炎症制御学共同研究講座の芝典江共同研究講座助教、宮内睦美名誉教授、太田耕司教授を中心とした研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS One」に掲載されている。

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口内炎は、再発性アフタ性口内炎（RAS）をはじめとしてさまざまな人が悩まされている一般的な口腔疾患である。激しい痛みを伴うことが多く、食事が困難になるなど、日常生活の質（QOL）を大きく低下させる。従来の治療では、ステロイド軟膏などが使われてきた。しかし、口内炎の再発を繰り返す患者や長期にわたりステロイドを使用する場合において、粘膜の萎縮や免疫低下を招くなどの副作用のリスクなどがあるため、より安全で効果的な治療法の開発が求められていた。

生薬「問荊」で知られるスギナエキス、口内炎による炎症・疼痛への作用を検証

研究グループは今回、生薬「問荊」として知られるスギナの抽出物（スギナエキス）に着目。口内炎によって起こる炎症や疼痛に及ぼすスギナエキスの作用について検証した。同研究では、ハムスターの頬袋に口内炎を人工的に引き起こし、スギナエキスを塗布する実験を行った。また、ラット由来の脊椎後根神経節細胞を用いた痛覚伝達因子に対するスギナエキスの影響についても検討した。

スギナエキス塗布ハムスター、口内炎の潰瘍サイズ縮小／組織学的に治癒促進

その結果、スギナエキスを塗布したハムスターでは、口内炎の潰瘍サイズが有意に縮小し、組織学的に創傷治癒が促進されることが確認された。

摂食行動が改善し、鎮痛効果を示唆

鎮痛効果においては、口内炎を誘導したハムスターでは、痛みで食事が困難になり、体重が減少したが、スギナエキスを塗布したハムスターは摂食行動が改善され体重減少が抑えられた。このことから、スギナエキスには鎮痛効果があることが示唆された。

スギナエキス、疼痛発現に関連のTNF-α・COX-2・サブスタンス Pの放出抑制

疼痛関連因子の発現抑制においては、分子レベルでの解析の結果、スギナエキスは、疼痛発現に関連している「炎症性サイトカイン（TNF-α）」や「プロスタグランジン合成酵素（COX-2）」、さらには「痛覚伝達物質（サブスタンス P）」の放出を抑制することがわかった。

これらの結果から、スギナエキスは、創傷治癒を促すだけでなく、痛みの根本原因となる複数の疼痛関連因子を同時に抑えることで、口内炎の痛みを効果的に軽減する可能性が示唆された。

今後、スギナエキスのより詳細な作用機序特定、ヒト対象の効果検証を進める予定

今回の研究成果は、口内炎やその痛みで悩む多くの人々に向けた、新しい口腔ケア製品の開発につながるものと期待される。スギナエキスを配合したオーラルケア製品などの製品が実用化されれば、口内炎患者のQOL向上に大きく貢献できると考えられる。さらに、生薬であるスギナエキスを用いることで副作用の懸念が少ない安全な口内炎治療法の開発につながる可能性がある。今後、スギナエキスのより詳細な作用機序（体内でどのように働き、組織の修復などに影響を与える仕組み）や有効成分の特定、さらにはヒトを対象とした口内炎への効果の検証を進めていく予定だ、と研究グループは述べている。（QLifePro編集部）