エネルギー代謝の指標となるATPの変化、生きた状態で全体を捉えることは困難だった
国立循環器病研究センターは9月29日、全身でエネルギー代謝の指標である細胞内アデノシン三リン酸(ATP)濃度を光として見ることができる「AVIDマウス(ATP Visualization In vivo Directly)」の開発に世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同センター研究推進支援部の山本正道特任部長、大西諭一郎非常勤研究員、九州大学病院検査部の瀬戸山大樹助教、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神薬理研究部分子精神薬理研究室の三輪秀樹室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。

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ヒトの体は、細胞内ATPというエネルギーがなければ動かない。心臓が拍動するのも、脳が働くのも、すべてこのエネルギーのおかげである。従って、ATPは「元気の素」とも考えられる。
ところが、これまでこのエネルギーが、体のどこで、どれだけ使われているのかを、生きた状態でリアルタイムに調べる方法はなかった。従来は、組織を取り出して凍結・分析するなどの「一時点の断片的な情報」しか得られず、病気の初期サインや全身の連携反応を捉えることが困難だった。
臓器のATP濃度をリアルタイムに観察できるマウス開発
今回の研究では、全身の臓器のエネルギー状態(ATP濃度)をリアルタイムに観察できるよう、マウスの体に特殊な蛍光センサーを発現させた「ATP可視化マウス(AVIDマウス)」を開発。エネルギー変化の”見える化”に世界で初めて成功した。
これにより、「心筋梗塞の直後に肝臓でATPが低下する」といった臓器間の異変の連鎖を、従来にはないスピードとスケールで発見することが可能になる。体の「どこで、いつ、どの程度」エネルギーが失われているかを”光”で観察できるこのマウスは、病気の予兆の発見、新薬の効果の評価、さらには臓器間ネットワークの解明などに革新をもたらすツールである。
心筋梗塞後の肝臓エネルギー低下や神経細胞のATP量の分布など新たに発見
このマウスを用い、以下3点が新たに発見された。
1)心筋梗塞が起きて1週間ほど経って肝臓に壊死が生じることは知られていたが、原因や始まりは不明だった。今回、心筋梗塞発症直後から肝臓でエネルギー低下が起きていることが初めて確認された。
2)AVIDマウスでは、どの部位の筋肉が、「いつ、どれだけのエネルギーを使ったか」を視覚的に捉えられることがわかった。
3)生体内の神経細胞の細胞体と樹状突起でATPの量に違いがあることが世界で初めて可視化された。
これらの新発見により、病態進行の理解、診断のタイミングの見直し、運動機能、筋疾患などの研究やリハビリ、運動療法の設計、神経の興奮伝達や記憶形成、神経変性疾患の初期変化の解明などに貢献できることが期待される。
疾患研究や副作用の少ない薬の開発など、さまざまな研究に大きく貢献できると期待
「このAVIDマウスは、心臓病、がん、認知症などの疾患研究や副作用の少ない薬の開発、効果的な投薬タイミングの検討、サプリメントや食品の評価、アスリートの身体評価やトレーニング法の研究に大きく貢献できると考えられており、今後は、MRIなどを用いたヒトへの応用に向けて、より高精度・安全な計測技術への発展を目指す」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース


