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潰瘍性大腸炎に対する「腸内細菌叢移植療法」で寛解導入率45.9%を達成-順大ほか

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2025年10月07日 AM09:20

A-FMT療法の臨床研究、これまで200人以上のドナーと潰瘍性大腸炎患者が参加

順天堂大学は9月29日、潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植療法で、寛解導入率45.9%を達成したと発表した。この研究は、同大とメタジェンセラピューティクス株式会社の共同研究によるもの。

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こす指定難病であり、国内の患者数は20万人以上と推定されている。腹痛や慢性下痢、血便などの症状によって生活の質が大きく損なわれ、患者数は年々増加している。

抗菌剤併用腸内細菌叢移植(以下、A-FMT)は「腸内細菌のバランスが乱れ、多様度が低下した状態」「3種類の抗菌薬(アモキシシリン、ホスホマイシン、メトロニダゾール:AFM療法)により腸内細菌量を極限まで減らし、乱れた腸内細菌叢をクリアにする」「内視鏡や注腸による便移植、つまりドナー便から生成した腸内細菌溶液の注入により、バランスのとれた腸内細菌叢の構築を図る」という3つのステップから成る。

同大では、2014年6月よりA-FMTに関する臨床研究を開始し、これまでに200人以上のドナーと240人以上の潰瘍性大腸炎患者が参加した。安全で効果的な新規治療法の確立を目指し、便ドナーの感染症スクリーニングの適正化や、「良いドナーの条件」および「ドナーと患者の相性」に関する知見を報告するなど、基礎研究と臨床応用の両面から成果を積み重ねてきた。

近年は、同大大学院医学研究科に腸内細菌療法リサーチセンター(Gut-Link Lab)が設置され、腸内細菌療法に関する基礎研究と臨床研究の連携が推進されている。さらに、A-FMT療法の実装化に向けて産学連携が進められており、メタジェンセラピューティクスとの協働により、安全かつ安定した腸内細菌叢溶液の作成・管理体制や臨床応用の基盤整備が進められている。

A-FMTを活動期潰瘍性大腸炎37例に実施、有効率70.3%/寛解導入率45.9%

今回のA-FMTの多施設共同臨床研究は、2023年1月に承認され、同年3月には同大医学部附属静岡病院と金沢大学附属病院、6月には滋賀医科大学医学部附属病院が新たに研究参加施設として加わり、体制を拡充して進められた。メタジェンセラピューティクスは共同研究機関として、腸内細菌ドナーのリクルーティング、便検体の管理、腸内細菌叢溶液の調製・品質管理など、臨床研究を支える重要な役割を担った。

2023年1月~2025年8月にかけて活動期潰瘍性大腸炎患者37例を対象に実施した結果、治療開始8週後の内視鏡・症状評価にて排便回数、血便、内視鏡所見のいずれも有意に改善し、症状が改善する有効率は70.3%、寛解導入率は45.9%に達し、主要評価項目を達成した。重篤な有害事象も認められず、安全性が確認された。

A-FMTの標準治療化・保険診療での実装を視野に入れ、さらなる研究開発を推進

同研究は、2014年から積み重ねてきた同大での臨床研究と、メタジェンセラピューティクスとの産学連携の成果であり、活動期潰瘍性大腸炎に対するA-FMTの有効性と安全性を国内で初めて臨床的に証明したといえる。

「2025年に設置された順天堂大学大学院医学研究科腸内細菌療法リサーチセンター(Gut-Link Lab)を拠点に、基礎研究と臨床研究の両輪でA-FMTのメカニズムの解明や患者とドナーの最適なマッチング指標の確立など腸内細菌サイエンスを根拠とした高い治療効果の医療技術を目指すとともに、標準治療化・保険診療での実装を視野に入れ、さらなる研究開発を推進していく」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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