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Sandhoff病、発症基盤にミクログリア・ニューロン相互作用の破綻-九大ほか

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2025年10月03日 AM09:10

ガングリオシド分解酵素HEXのβサブユニットHexbがミクログリアに高発現、生理学的意義は?

九州大学は9月24日、最新の解析技術と新規遺伝子改変マウスを用いた研究により、脳の主要な免疫細胞である「ミクログリア」が神経細胞の脂質代謝を助けていることを発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の増田隆博主幹教授と、独フライブルク大学のMarco Prinz教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature」に掲載されている。


画像はリリースより
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脳に常在する主要免疫細胞ミクログリアは、発達期の神経回路形成やシナプス恒常性の維持、病理学的ストレス応答など、多面的に脳機能を支えている。近年の先端技術の進展により、ミクログリアと神経細胞の新しい相互作用様式が次々と明らかになりつつある。一方、神経細胞膜の主要成分であるガングリオシドは、膜ラフト形成やシグナル伝達に関与し、発達段階に応じて組成が変化することが知られている。研究グループは先行研究により、ガングリオシド分解酵素であるβ-ヘキソサミニダーゼ(HEX)のβサブユニットHexbがミクログリアに高発現していることを見出した。しかし、その生理学的意義は未解明のままであった。

ミクログリア分泌HEXが神経細胞へ、リソソーム内でGM2ガングリオシド分解支援

今回の研究では、ミクログリアが分泌するHEXが神経細胞に取り込まれ、リソソーム内でGM2ガングリオシドの分解を支援することを初めて明らかにした。

Sandhoff病、HEX供給システムの破綻により神経細胞にGM2ガングリオシドが蓄積

一方で、遺伝子異常によってHEXが機能しない「Sandhoff病」の患者やモデルマウスでは、HEX供給システムが破綻することによりGM2ガングリオシドが神経細胞に蓄積し、膜構造の破綻と神経障害が生じることがわかった。Sandhoff病はHEXB遺伝子の異常によって引き起こされるライソゾーム病の一種で、ガングリオシドが脳の組織に蓄積すること特徴。現状、有効な治療法がなく、若年で死に至る神経疾患である。また、蓄積したGM2ガングリオシドがミクログリアのMGL2受容体を刺激し、TNFやIL-6といった炎症応答を誘発することで、神経変性を加速させることを解明した。

さらに、Sandhoff病モデルマウスにおいて、内在性ミクログリアを末梢由来の正常なミクログリア様細胞に置換すると、この病的ループが断ち切られ、中枢神経の恒常性と神経機能が回復することを実証した。

Hex–GM2–MGL2軸中心のミクログリア‐ニューロン相互作用が膜恒常性維持に必須

今回の研究により、Hex–GM2–MGL2軸を中心とした双方向性のミクログリア‐ニューロン相互作用が膜恒常性の維持に必須であり、その破綻が神経変性へ直結することを明確にした。さらに、糖鎖認識を介したミクログリアの感知機構やリソソーム酵素の細胞間輸送といった新たな研究課題を提示し、神経免疫学や神経変性疾患研究の方向性に大きな影響を与える知見となった。

神経変性疾患に対するミクログリア置換療法の有効性を実証、新たな治療戦略として期待

あわせて、脂質代謝と免疫認識の連関を明らかにするとともに、神経変性に関わる新しい病態概念「ミクログリオパチー」を提示し、さらにミクログリア置換療法の有効性を実証した。今後さらに研究を深化させることで、従来有効な治療法が存在しなかった神経疾患に対して革新的な治療戦略が提案できる可能性が高いと考える、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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