臓器連関によるサルコペニア発症、骨格筋外の原因として「脳」に着目
国立長寿医療研究センターは9月24日、サルコペニアの発症に脳(外側視床下部)の NAD+代謝が密接に関わっていることを発見したと発表した。この研究は、同センター中枢性老化-骨格筋代謝-運動機能制御研究プロジェクトチームの伊藤尚基プロジェクトリーダー、江口貴大研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載されている。

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超高齢社会において、加齢に伴う骨格筋量・筋力の低下(サルコペニア)は喫緊の社会的・経済的問題となっている。サルコペニアをはじめとする老化関連疾患はさまざまな組織・臓器の機能低下が同時に起こる。体は臓器同士がコミュニケーションをとりながら生体恒常性を維持しているため、一つの臓器の機能低下が他の臓器の機能低下を引き起こすことがある。サルコペニアは骨格筋の病気だが、サルコペニアの原因は骨格筋の中だけでなく、骨格筋以外の組織・臓器にもある可能性が近年注目されている。そこで研究グループは、外側視床下部という脳の領域に着目し、今回、NAD+の低下がサルコペニアを引き起こす一因であることを突き止めた。
NAD+は非常に多くの酵素反応に関わり、老化・寿命の制御因子として知られるサーチュインをはじめ、代謝・生存など数多くの生化学反応・細胞内過程に関わっている。また組織/細胞内のNAD+は加齢と共に低下していき、このNAD+の低下が老化関連疾患の発症・進行に深く関わることがわかってきた。特にNAD+合成中間体のニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)やニコチンアミド・リボシド(NR)を摂取することで、加齢に伴って低下した組織/細胞内のNAD+を上昇させられるため、これらの「NAD+ブースター」と呼ばれる分子が抗老化物質の候補として大きな注目を浴びている。
脳のNampt酵素を抑制した若齢マウス、サルコペニア様症状を誘発
研究グループはまず、NAD+の維持に必要不可欠なNamptという酵素に着目した。NamptはNAD+の維持に必要不可欠なNAD+サルベージ経路の律速酵素で、Namptの低下はNAD+の低下を引き起こす。そこで若齢マウスの外側視床下部におけるNamptを遺伝学的な方法で抑制し、加齢依存的なNAD+の低下を模擬する実験を行った。その結果、体重低下、骨格筋量/筋力の低下、走行距離の低下、骨格筋における解糖系・タンパク質合成系が低下し、若齢マウスにおいてサルコペニア様の症状が誘導されることがわかった。これらの結果から、外側視床下部におけるNampt/NAD+代謝が骨格筋機能を制御する上で重要であることが明らかになった。
脳のNAD+代謝と骨格筋、乳酸を介した筋機能制御経路を解明
研究グループは次に、この脳のNampt/NAD+代謝の低下が、骨格筋機能の低下につながる具体的なメカニズムに着目した。骨格筋量の維持に必要不可欠なタンパク質合成系と解糖系をはじめとした代謝系との関係は明らかになっていなかった。そこで、解糖系とタンパク質合成系の関係に着目したところ、解糖系によって作られる乳酸がタンパク質合成系の活性化に重要な代謝物であることがわかった。乳酸には骨格筋のCa2+シグナルを活性化する作用があることがわかり、そのCa2+シグナルの活性化によってタンパク質合成系が活性化され、筋機能が維持されていることが示された。
以上の結果から、脳(外側視床下部)のNAD+代謝を起点とした脳-骨格筋連関があること、また脳-骨格筋連関は骨格筋内の解糖系(乳酸)に作用し、筋機能を制御していることが解明された。
サルコペニアの新たな予防法や治療法の開発に期待
今回の研究は臓器連関に着目し、特に外側視床下部のNAD+代謝とサルコペニアが密接に関わっていることを示した。
「サルコペニアが発症する原因はいまだ未解明な点が多く、さまざまな要因が複雑に関わっていると考えられている。発症する原因の解明につながるため、今回の成果は今後のサルコペニアの予防・治療法の研究開発に貢献すると期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立長寿医療研究センター プレスリリース


