PMばく露は早産、アレルギーなどさまざまな症状と関連する
国立成育医療研究センターは9月19日、幼児期における粒子状物質(PM)ばく露と甲状腺ホルモン(TH)値との関連を調べた結果を発表した。この研究は、同センターエコチル調査研究部の羊利敏氏、佐藤未織氏、齋藤麻耶子氏、宮地裕美子氏、原間大輔氏、坂本慧氏、西里美菜保氏、熊坂夏彦氏、目澤秀俊氏、山本貴和子氏、大矢幸弘氏、深見真紀氏らの研究グループとJECSグループの共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に掲載されている。
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質やその他環境因子へのばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査である。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
PMばく露は、子癇前症、早産、アレルギー性疾患、自閉症スペクトラム障害などの発症と関連が報告されている。先行研究より、PMばく露はTHの調節と機能に影響を及ぼすこと、さらに、成人を対象とした研究では、PMばく露とTH値との間に関連があることが報告されている。
エコチル調査データを用いて、2~4歳のPMばく露とfT4・TSH濃度との関連を評価
今回の研究では、エコチル調査の詳細調査データを用いて、2~4歳の小児におけるPMばく露と血中遊離サイロキシン(fT4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度との関連を調べた。
同研究では、約10万人の参加者のうち、詳細調査に協力した約5,000人を対象とし、2歳と4歳の甲状腺ホルモン値を分析。2つの年齢群について別々のデータセットとして解析した。甲状腺ホルモン値のデータが欠損している参加者、双子、親が報告した内分泌疾患のある子ども、先天性甲状腺機能低下症、妊娠前または妊娠中に甲状腺疾患の病歴のある母親、血液検査当日に病気がある子どもは解析から除き、2歳児群3,599人と4歳児群3,431人の甲状腺ホルモン値を分析に使用した。
1歳6か月時と3歳時の2回、家庭訪問を行い、環境測定から入手した室内と室外PM測定値をばく露として使用。PMばく露と甲状腺ホルモン値との関連について、一般化線形モデルを用いて検討を行った。
1.5歳時のPMばく露と2歳時のfT4・TSH濃度に関連なし
検討の結果、1.5歳時の屋内および屋外のPMばく露はいずれも、2歳時のfT4およびTSH値と有意な関連を示さなかった。
3歳時のPMばく露と4歳時のfT4濃度に負の相関
その一方、3歳時の屋内および屋外のPM10-2.5ばく露は、4歳時のfT4濃度と有意に負の関連を示した。屋内のPM10-2.5が2倍になると、fT4濃度は0.007ng/dL減少した。
人の健康に重大な影響を及ぼす可能性は極めて低いと結論
今回の研究では、統計上、PM10-2.5とfT4濃度の間に負の関連が見られたが、その関連性は極めて小さいと考えられた。公衆衛生や臨床の視点から、このわずかな変化が人の健康に重大な影響を及ぼす可能性は低く、日常生活においてPMが甲状腺ホルモン値に重大な影響を与えることはないと結論付けた。
同研究の限界としては、1)甲状腺ホルモンを反映する指標がTSHとfT4の2種類しかないこと、2)PMと甲状腺ホルモン測定が同時ではないこと、3)ばく露の測定が1回のみであったため、累積リスクに関する評価もできなかったこと、などが挙げられる。
「他の汚染物質成分や、学童期や思春期での大気汚染と甲状腺機能との関連については、今後の研究結果を待つ必要がある。引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立成育医療研究センター プレスリリース


