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がん関連タンパク質PPM1D、新規分解経路解明で併用療法の可能性-北大

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2025年09月30日 AM09:20

重要ながん関連タンパク質PPM1D、その分解・除去メカニズムの詳細は未解明

北海道大学は9月18日、がんドライバー遺伝子産物であり、脱リン酸化酵素でもあるPPM1Dが、従来知られていた「ユビキチン」という目印を付ける経路を介さずに、直接プロテアソームで分解されることを発見したと発表した。今回の研究は、同大大学院医学院博士課程4年の高橋正樹氏、医学研究院の渡部昌講師、畠山鎮次教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biomedical Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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ヒトの細胞は、常に新しいタンパク質を合成し、不要になったり損傷したりしたものを分解することで、正常な機能を維持している。この「タンパク質の品質管理」の破綻は、がんをはじめとするさまざまな疾患の原因となる。がんドライバー遺伝子産物の一種で脱リン酸化酵素でもあるPPM1Dは、がん抑制因子であるp53を抑える働きを持つタンパク質で、過剰に存在するとがんの進行や治療抵抗性を助長することが知られている。しかし、PPM1Dそのものがどのように分解・除去されているのかについては、これまで十分に理解されていなかった。

培養細胞・がん細胞を用い、PPM1D分解メカニズムやPPM1D阻害薬効果を解析

研究グループは、細胞や試験管内での実験を組み合わせてPPM1Dの分解メカニズムを詳細に解析した。

まず、培養細胞を用いてPPM1Dがどのような条件で安定化または分解されるかを調べた。プロテアソーム阻害剤やユビキチン化阻害剤を加えた実験により、PPM1Dの分解経路を追跡した。さらに、精製したPPM1Dタンパク質を用いて、細胞外でもプロテアソームがPPM1Dを直接分解できるかを再現実験として検証した。加えて、タンパク質間相互作用の解析技術を駆使し、PPM1Dの分解を助ける因子を探索した。これにより、PPM1Dとプロテアソームのどのサブユニットが関わるのかを特定することを目指した。

また、がん細胞を用いた薬剤感受性の実験では、プロテアソーム阻害薬とPPM1D阻害薬を単独あるいは併用で投与し、細胞の生存率や増殖能を比較した。特に、既存治療に耐性を示すがん細胞株を用いて、併用療法がどの程度有効であるかを重点的に評価した。これらの一連の実験により、PPM1Dの分解機構とそれががん治療に与える影響を、多角的に明らかにすることができた。

PPM1Dのユビキチン非依存的分解経路を解明、PPM1D阻害薬併用療法の可能性示唆

解析の結果、PPM1Dは細胞内で非常に壊れやすい性質を持ち、その分解はカルボキシル末端領域に依存していることがわかった。PPM1Dは、従来知られていた「ユビキチン」という目印を付ける経路を介さずに、直接プロテアソームでも分解されることを発見した。さらに、分解を促進する要因として、プロテアソームの構成要素であるPSMD14とPSME3が重要な役割を担うことを突き止めた。これらの因子はPPM1Dをプロテアソームに効率的に導き、迅速な分解を助けていると考えられる。

薬剤感受性の実験では、プロテアソーム阻害薬を用いるとPPM1Dが細胞内に蓄積し、がん細胞の生存をむしろ助長してしまう場合があることがわかった。しかし、ここにPPM1D阻害薬を組み合わせると、両者は相乗的に作用し、がん細胞の増殖を強力に抑えることが明らかとなった。特に薬剤耐性を示すがん細胞においてもこの効果が確認され、併用療法が有望な戦略であることが強く示唆された。

有望な新規標的となりうるほか、新しいタンパク質制御の理解にもつながると期待

今回の発見により、PPM1Dはがん治療における有望な新規標的であることが示された。特に、既存のプロテアソーム阻害薬との併用は、新しい治療法開発につながる可能性がある。「さらに、ユビキチンを介さないタンパク質分解という特殊なメカニズムは、細胞内のタンパク質制御の新しい理解にも貢献する」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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