高脂肪食は認知機能低下とも関連、分子メカニズムは未解明だった
千葉大学は9月10日、長期間の高脂肪食の摂取による記憶機能低下の仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学薬学府博士後期課程3年の岳桐氏、大学院薬学研究院の伊藤素行教授、殿城亜矢子准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Genetics」にオンライン掲載されている。

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近年の食生活の変化により、高脂肪食(HFD)の摂取頻度が増加しており、肥満や糖尿病などの生活習慣病だけでなく、認知機能の低下との関連にも注目が集まっている。特に、アルツハイマー病などの神経変性疾患では、食事由来の代謝ストレスが発症や進行に関与することが示されている。しかし、HFDが記憶形成に与える影響の分子メカニズムは解明されていない。
オートファジーとリソソーム機能に着目、ショウジョウバエでメカニズムを検討
オートファジーは、細胞内の不要なタンパク質や損傷した細胞小器官を分解・再利用する仕組みであり、その最終段階では、分解酵素を含む細胞小器官であるリソソームによる分解が不可欠である。オートファジーやリソソーム機能の低下は、記憶障害や神経変性疾患と関連することが知られている。
そこで今回の研究では、遺伝学的操作と記憶評価が容易なショウジョウバエをモデルに、HFDによる記憶障害の神経メカニズムを、オートファジーとリソソーム機能の観点から解明することを目指した。
HFDにより中・長期記憶が低下、神経細胞ではオートファジー抑制を確認
研究グループは、ショウジョウバエに7日間HFDを与え、記憶機能への影響を調べた。その結果、HFDを摂取したハエでは、短期記憶(学習直後~数分程度維持される一時的な記憶)には変化が見られなかったが、中期記憶(学習後、数十分~数時間程度持続する記憶)および長期記憶(学習後、24時間程度持続する記憶)の低下が認められた。
次に、HFDが神経細胞に及ぼす影響を調べたところ、オートファジー活性が低下し、オートファジーで分解されるタンパク質「Ref(2)p」(哺乳類では神経変性疾患に関わるp62タンパク質に相当)が細胞内に蓄積していることがわかった。さらに、神経細胞の解析により、HFDを摂取したハエの脳神経細胞ではオートファジーの過程で分解すべきタンパク質などを包み込む膜構造体「オートファゴソーム」とリソソームの数が増加している一方で、オートファゴソームがリソソームと融合した後の構造体である「オートリソソーム」の数には変化がないことが明らかになった。これにより、HFDがオートファゴソームとリソソームの融合を抑制している可能性が示された。
神経細胞のオートファジー活性化でHFDによる中期記憶の低下が回復
HFDによる記憶障害が神経細胞のオートファジー機能の低下によって引き起こされているかを検証するため、神経細胞内でオートファジーを活性化させる遺伝学的操作を行った。オートファジーの開始を制御するAtg1の過剰発現や、オートファジー抑制因子Rubiconのノックダウンを行ったところ、HFDによる中期記憶の低下が回復することが確認された。
オートファジー経路を標的とした新たな予防・治療戦略の可能性
今回の研究により、HFDが神経細胞におけるオートファジーの機能を低下させ、特にオートファゴソームとリソソームの融合過程を抑制することで、中期記憶を低下させることが明らかになった。さらに、オートファジーを活性化することで、記憶低下が回復可能であることも示された。
「これらの成果は、食習慣が脳の働きに与える影響を分子レベルで理解するうえで重要な知見であり、今後の研究ではオートファジーの制御を標的とした新たな介入方法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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