乳児期の栄養変化が脂肪肝に与える影響、その分子メカニズムは未解明
山梨大学は9月1日、乳児期の早期離乳が将来的に脂肪肝を引き起こすメカニズムをマウス実験で解明したと発表した。この研究は、同大大学院博士課程統合応用生命科学専攻生命農学コース2年の足立遥郁氏、同大大学院総合研究部の石山詩織助教、吉村健太郎講師、葛西宏威助教、望月和樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism」に掲載されている。

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成人期の生活習慣病は、これまで成長期から成人期にかけての運動や食習慣が主要な決定因子と考えられてきた。しかし、同じ生活習慣を送っていても発症の有無が異なることがあり、こうした矛盾から近年ではDOHaD学説(Developmental Origins of Health and Disease:胎児期や出生後の発達期の環境が将来の健康や疾患リスクに大きく影響するという考え方)に基づく研究が活発化している。
このような中、WHOは、生後6か月までは完全母乳を推奨し、6か月以降は補完食を開始しながら2歳までは母乳継続を勧めている。一方、日本における母乳育児の終了時期は平均で1歳〜1歳半と、国際的な推奨より半年〜1年短いことが報告されている。離乳のタイミングは、消化器系や代謝系の発達に大きな影響を及ぼす可能性があり、早期離乳は肥満や2型糖尿病などの生活習慣病リスクを高める要因として示唆されている。脂肪肝は肝臓に脂肪が過剰に蓄積される病態で、MASLD(代謝機能障害関連脂肪肝疾患)やその進行形であるMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)と密接に関連している。これらの疾患は世界的に増加傾向にあり、予防や早期介入が重要である。しかし、乳児期の栄養変化が脂肪肝の発症にどのように関与するのか、その分子メカニズムは未解明の部分が多く残されている。
早期離乳による肝臓の脂肪蓄積をマウスで確認、リン脂質・合成酵素が関連
今回の研究では、マウスを用いて早期離乳が肝臓に及ぼす影響とその分子メカニズムを解析した。ICR系統の雄マウスを、通常離乳群(生後21日で離乳)と早期離乳群(生後17日で離乳)に分け、離乳後は両群とも標準飼料(AIN93G)を32週齢まで給餌した。その後、肝臓の組織学的および分子生物学的解析を実施した。
解析の結果、早期離乳群では肝臓の脂肪滴径が有意に増大し、脂肪肝の兆候が認められた。肝臓のメタボローム解析により、リン脂質の一種であるホスファチジルコリンの減少が明らかとなり、その合成酵素であるPEMT(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase)およびMTHFR(methylenetetrahydrofolate reductase)のmRNA・タンパク質発現も低下していた。ホスファチジルコリンは脂肪滴同士の融合を抑制することが報告されており、その減少は脂肪滴肥大化の一因と考えられる。
代謝物バランスの変化により、エピジェネティック制御に影響
加えて、メチオニン合成に関わる代謝物(ニコチンアミド、グルタチオン)や解糖系関連代謝物(乳酸)の低下が観察され、これらの変化からヒストンのアセチル化やメチル化が減少している可能性が示唆された。実際、エピジェネティック解析ではPemt遺伝子周辺におけるヒストンH3リジン基(K)4番目のトリメチル化修飾(H3K4me3)およびヒストンH3K27のアセチル化修飾(H3K27ac)が減少しており、エピジェネティックな転写抑制が関与していることが明らかになった。
これらの結果は、早期離乳が肝臓の脂質代謝や代謝物バランスを変化させ、その影響がエピジェネティック制御にまで及ぶことを示している。
MASLD予防、離乳時期の新たな栄養指導につながる可能性
これまでの疫学研究や動物実験(齧歯類・ブタ)では、早期離乳が肥満や肝臓中のトリアシルグリセロール増加に関連することが示されていたが、その分子メカニズムは未解明であった。今回の研究により、授乳期間の短縮が将来的な脂肪肝発症リスクを高める可能性がマウスモデルで明らかとなり、乳児期の栄養指導の重要性が示された。特に、完全離乳のタイミングが肝臓の脂質代謝に長期的影響を及ぼすという知見は、ヒトにおけるMASLD予防や早期介入の新たな視点となることが期待される。
「今後は、ヒトでの離乳完了時期と肝機能・代謝性疾患との関連を明らかにする疫学研究が求められる。また、完全離乳後にコリンやメチオニンを含む栄養補助食投与により脂肪肝発症が予防できるかについての介入試験や、ホスファチジルコリン合成酵素を標的とした治療薬の探索・開発も期待される」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース


