従来のホルモン療法で線維化の抑制は困難、新たな治療アプローチが必要
山梨大学は8月25日、子宮内膜症の病変部で生じる組織の「線維化」に、アレルギー疾患などに関わる白血球の一つ「好酸球」が中心的な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院総合研究部医学域の小野洋輔臨床助教、田中孝太臨床助教、吉野修教授、小泉修一教授らと北里大学、富山大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

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子宮内膜症は、子宮の内膜組織が何らかの原因で子宮外に生着し、発育する疾患である。月経痛が代表的な症状であるが、子宮内膜症組織の線維化は性交痛、排便時の痛み、不妊症などの重篤な症状を引き起こす要因となる。これまで線維化の詳しいメカニズムは解明されていなかった。また、現在使われているホルモン療法では線維化そのものを抑えることは難しく、新たな治療アプローチが求められていた。
線維化進行領域に多数の好酸球、集合部位では線維芽細胞が活性化し線維化進行
今回の研究では、子宮内膜症に対する手術で摘出された病変組織の組織学的観察を行った。子宮内膜症の病変、特に線維化が起きている部分に、白血球の一種である好酸球が特異的に多数集まっていることをヘマトキシリン・エオジン染色及び好酸球内に含まれるタンパク質であるMajor basic protein(MBP)に対する免疫染色を行い確認。さらに、好酸球が集まっている場所では線維芽細胞が活性化し、コラーゲンなどの細胞外基質が過剰に蓄積して線維化が進行している様子が確認された。
病変<GM-CSF産生<好酸球誘引・活性化<PAI-1産生<線維化促進
次に、なぜ好酸球が子宮内膜症の病変に集まるのかを調べるため、子宮内膜症性嚢胞の嚢胞内に溜まった内容液を分析した。その結果、好酸球を誘引し活性化させる働きを持つサイトカインである顆粒球マクロファージ刺激因子(GM-CSF)の濃度が、他の良性卵巣腫瘍の内容液に比べて高いことが判明した。
さらに、好酸球が線維化をどのように引き起こすのかを解明するため、子宮内膜症の細胞(間質細胞・上皮細胞)と好酸球を一緒に培養する実験を行った。その結果、好酸球が存在すると、子宮内膜症細胞から線維化を促進する因子であるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)の産生が増加することがわかった。この結果は、実際の病変組織の免疫染色でも、好酸球の周囲でPAI-1が強く発現していることからも裏付けられた。
以上の結果から、「子宮内膜症の病変における低酸素などのストレスがGM-CSFの産生を促し、集まってきた好酸球がPAI-1を介して線維化を促進する」という、これまで知られていなかった新しい病態メカニズムが示唆された。
好酸球抑制治療、子宮内膜症への応用に期待
好酸球を抑制する治療は気管支喘息などですでに行われており、今回の発見は子宮内膜症への応用が期待される。特に、従来のホルモン療法では十分な効果が見られない病変組織の線維化に対して、新しい治療戦略となる可能性がある。臨床応用に向けてさらなる研究が期待される、と研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース


