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ゴボウに含まれるプレバイオティクス、脳内GABAを増加-広島大

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2025年08月29日 AM09:10

脳内GABA減少は、てんかん・うつ病・アルツハイマー病など神経疾患との関連も

広島大学は8月22日、食品に含まれる腸内細菌を活性化する成分「プレバイオティクス」を摂取すると、腸内でGABA(γ-アミノ酪酸)を産生し、脳内のGABAを増加させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院統合生命科学研究科のタナッチャポーン カムランシー准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Science of Food」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳内GABAの低下は、古くからてんかん患者において多く観察されており、GABAの脳内濃度を上昇させることを目的に、血液と脳の間にあるバリア「血液脳関門(BBB)」を通過可能な抗てんかん薬が多数開発されてきた。近年では、脳内GABAの減少はてんかんのみならず、うつ病、アルツハイマー病、自閉スペクトラム症など、他の神経疾患との関連も報告されている。脳内GABA濃度を高める最も直接的な方法は、GABAを摂取することであるが、GABAはBBBを通過できないと長年考えられてきたため、体の外から摂ったGABAが脳に与える役割については、これまで注目されてこなかった。しかし近年では、腸由来のGABAが腸と脳をつなぐ鍵となる物質の一つである可能性が示唆されており、腸で作られた「末梢性GABA」が脳機能に与える影響に対する関心が高まりつつある。

脳内GABA濃度を上昇させる薬剤は医療用医薬品であり、副作用のリスクもあることから、食事を通じて脳内GABA濃度を高める手段の研究が進められている。これまでに報告されている有効な食品成分は、ケトン食(高脂肪・低炭水化物の食事)および一部のプロバイオティクスのみに限られているが、ケトン食は、糖質を極端に制限し、脂質中心の食事を続ける必要があるため、日常生活での実践が難しいとされている。

プレバイオティクスFOS+麹菌由来酵素、マウスで内GABA増加

そこで今回の研究では、ゴボウなどの食品素材に多く含まれるフルクトオリゴ糖(FOS)などのプレバイオティクスや、伝統的な発酵食品に含まれる麹菌由来酵素に着目した。これらの身近な食品成分が、腸および脳内のGABA濃度に与える影響を検証した。

研究グループは、FOSおよび麹菌由来酵素(リパーゼおよびプロテアーゼ)を添加した食餌を4週間マウスに投与し、腸および脳におけるGABA濃度を測定した。その結果、FOSおよび麹菌由来酵素を摂取したマウスでは、腸内および脳内のGABA濃度が有意に上昇していることが明らかになった。さらに、FOSとこれらの酵素は腸内細菌の構成を変化させ、「Parabacteroides」や「Akkermansia」といったGABA産生菌を増やし、腸内でのGABA産生を促進していることが確認された。

GABA含有の脳特異的ペプチド「ホモカルノシン」も増加

加えて、GABAを含有する脳特異的ペプチドである「ホモカルノシン」の脳内濃度も上昇していた。ホモカルノシンはさまざまな神経疾患との関連が報告されており、研究グループの先行研究では、ホモカルノシン欠損マウスにおいて抑うつ様行動や多動性(落ち着きのなさ)が顕著に確認されている。これらの結果から、脳内のGABAおよびホモカルノシンを増加させることは、気分や行動の調節に寄与する可能性が示された。

同研究の意義として、FOSを豊富に含む、キクイモ、ゴボウ、チコリ、エシャロット、ニンニク、タマネギなど、身近な食品の摂取によって、腸内および脳内のGABA濃度を増加させることができる可能性が示された。また、味噌や甘酒など、発酵食品に含まれる麹菌由来酵素も、腸内細菌を調節しGABA産生を促進する食品成分として有用であることが示された。マウスモデルにおいて、FOSおよび麹菌由来酵素を毎日摂取させた効果が見出されたことから、これらの食品を日常的に摂取することが、腸および脳内のGABAを増加させる鍵となる可能性を示している。

プレバイオティクス食品、てんかん・うつ病などGABA関連脳疾患の予防・改善の可能性

今後、腸内で産生されたGABAが脳内のGABA濃度にどのように影響を及ぼすのか、またその際に関与する生体内経路について詳細に解明を進める予定である。有力な経路の一つとして注目されているのが、腸と脳をつなぐ主要な情報伝達経路である迷走神経である。実際に、てんかんの治療法の一つである「迷走神経刺激(VNS)」では、脳内GABA濃度の上昇および発作の抑制が報告されている。このことから、腸内で産生されたGABAやその関連物質が、同様に迷走神経を介して脳に作用している可能性が考えられる。

こうしたメカニズムが明らかになることで、同研究で用いたプレバイオティクス食品が、てんかんやうつ病などのGABA関連脳疾患の予防・改善に応用できるかどうかを検討することが今後の目標である。現時点では、腸内環境の改善を通じて腸および脳内のGABA濃度を高める可能性があるアプローチとして、プレバイオティクス食品の摂取を推奨している。ただし、これらの食品はあくまで補助的な手段であり、神経疾患に対する医療的治療や薬物療法の代替とはなり得ない点には注意が必要である、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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