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慢性期脳梗塞、運動後の多血小板血漿由来エクソソームが機能回復を促進-順大ほか

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2025年08月28日 AM09:00

慢性期脳梗塞、リハビリ以外の治療法が求められている

順天堂大学は8月22日、「多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma: PRP)」から抽出したエクソソームが、慢性期の脳梗塞後の神経回復にどのような効果を持つかを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科神経学の宮内淑史氏、宮元伸和准教授、服部信孝特任教授、山梨大学大学院総合研究部医学域の上野祐司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳梗塞は、世界中で主要な死因・後遺症の原因となっている。急性期には血栓溶解療法や血栓回収療法などが行われるが、発症から時間が経過した「慢性期」に対しては、リハビリ以外に有効な治療法は限られている。慢性期の機能回復を促す治療法の確立は、患者QOL向上のためにも喫緊の課題である。

運動がエクソソームの治療効果に与える影響をラットで検証

近年、細胞間コミュニケーションを担う「エクソソームを含む細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EVs)」が注目されている。EVsは細胞から分泌される微小な小胞で、タンパク質やマイクロRNAなどの情報分子を含む。細胞間の情報伝達を担うことから、再生医療や神経疾患治療への応用が期待されている。

これまでに、骨髄間葉系幹細胞由来のEVsによる脳梗塞後の再生効果に関する報告はあるが、多血小板血漿由来のEVs(PRP-EVs)の効果は明らかではなかった。そこで、今回の研究では慢性期の脳梗塞に対する新たな治療法として、PRP-EVs、特に運動負荷を受けたラットから得たaPRP-EVsが持つ治療効果を検証した。

運動によりエクソソームに質的変化、脳梗塞後の機能回復を促進

まず、運動を行ったラット(アスリート群:トレッドミル運動15m/分、30分/日、週3回、4週間)と、運動を行わなかったラット(非アスリート群)からPRPを採取し、それぞれからエクソソームを分離した。エクソソーム内の成分を比較した結果、運動によって得られたaPRP-EVsでは、再生に関与するとされるタンパク質(CD63、TGF-β1、VEGFなど)の発現が高く、運動によってエクソソームの内容が質的に変化していることが確認された。

次に、無酸素無糖負荷(Oxygen Glucose Deprivation: OGD)によって脳梗塞病態を模倣した神経細胞、および中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルラットを用いた実験で、aPRP-EVsの治療効果を評価した。OGD処理を行った神経細胞に対してaPRP-EVsを添加すると、細胞の生存率が有意に高まり、神経軸索の成長を示す指標(pNFH)の発現が促進された。また、行動解析により、7日目にaPRP-EVsを静脈投与されたMCAOモデルラットは、運動機能や神経機能の回復が著しく、脳梗塞体積も縮小していることが示された。

aPRP-EVsの治療効果、2つの異なる経路が寄与

網羅的解析による分子メカニズムの検討を行ったところ、aPRP-EVsの効果はTGF-β/SMADシグナルの活性化と、カルシウム(Ca2+)シグナルの抑制を介していることが明らかになった。具体的には、TGF-β1の発現増加、SMAD4の核内移行、NMDAR2B(NMDA受容体サブユニット)の発現抑制が観察された。これは、神経再生の促進と同時に、興奮毒性による神経細胞死を防ぐ両面の作用を持つことを意味している。

さらに、TGF-β受容体阻害薬(Galunisertib)およびNMDA受容体作動薬(NMDA)との併用実験では、いずれもaPRP-EVsの神経保護作用が減弱し、TGF-β/SMADおよびカルシウムシグナルの両経路がそれぞれ独立して治療効果に寄与している可能性が示唆された。

新たな慢性期脳梗塞の治療法開発に期待、実用化に向けた研究を継続

今回の研究によって、運動負荷によって得られた多血小板血漿(PRP)由来のエクソソーム(aPRP-EVs)が慢性期脳梗塞後の神経再生や機能回復を促進することが明らかになり、PRPを用いた再生医療の新たな可能性が示された。特に、TGF-β/SMAD経路の活性化とカルシウムシグナルの抑制という複数の経路を同時に制御することで、神経保護と軸索再生を両立できる点が大きな特徴である。さらに、PRPは採取・保存が容易であり、幹細胞由来EVsと比較して低コストかつ臨床応用性に優れていることも大きな利点である。

「今後は、ヒトでの安全性・有効性の検証をはじめ、高齢者や患者における再現性の評価、運動以外の方法でPRP-EVsの質を高める代替手段の開発、さらには最適な投与時期や用量の探索が求められる。本研究は、慢性期脳梗塞に対する革新的な治療法開発に向けた第一歩になると確信している」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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