多様で複雑なアジュバント、標準化された安全性・有効性評価法は未確立
国立医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)は8月11日、ワクチンアジュバントおよび免疫療法薬の開発においてその有効性、安全の前臨床評価に大きく貢献しうる「アジュバントデータベース(ADB)」を構築したと発表した。今回の研究は、同研究所AI健康・医薬研究センターの夏目やよいセンター長、國澤純副所長(ヘルスケア・メディカル微生物研究センター長併任)、東京大学医科学研究所ワクチン科学分野の石井健教授(前 NIBNワクチン・アジュバント研究センター長)、小檜山康司准教授(研究当時、現カルフォルニア州立大サンディエゴ校Vc-Health Sciences-Schools、医学部Associate Project Scientist)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Chemical Biology」に掲載されている。

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アジュバントとは、ワクチン抗原特異的な免疫反応に必須なワクチンの重要な成分であるが、単独でも感染症やがん、アレルギーなどに対する免疫応答を高める薬剤としても開発研究が進んでおり注目されている。しかし、製剤の成分や作用機序も多様で複雑であることが知られ、その有効性や安全性評価の標準化された方法がないことから、他の薬剤に比べ上市までの時間がかかり、創薬研究が困難であることが指摘されていた。
25種類の主要アジュバント対象、標準化された手法で包括的にデータを収集しDB構築
今回研究グループは、25種類の主要アジュバントについて、複数の動物種、臓器、用量、時間点における包括的な遺伝子発現プロファイルを標準化された手法で収集し、既に広く利活用されているトキシコゲノミクスデータベースOTG(Open TG-GATEs)と統合したADBを構築した。
遺伝子発現パターンに反映される特徴から、候補薬の有効性・毒性も予測可能
これらのデータは、ユーザーフレンドリーなウェブアプリケーションにより簡便に閲覧、解析を行うことが可能である。これにより、各アジュバント固有の遺伝子発現パターンを明確に示すことが可能になり、作用機序が似ているアジュバントでは遺伝子発現プロファイルも似ているといった傾向からアジュバントの特徴が遺伝子発現パターンに反映されていることを示した。
このことからADBの遺伝子発現プロファイルからアジュバントによって惹起される生体応答を推論することが可能になると考えられ、実際に血球数と相関する遺伝子群が見出された。ADBで収集したアジュバントの遺伝子発現プロファイルにはその作用機序や生体応答に関する情報が含まれていること、OTGと統一したプロトコルでデータ収集を行っていることから、これらの特性を生かした利活用が可能である。その具体例として、機械学習によるアジュバントの候補薬や既存の登録薬剤のアジュバントとしての有効性、毒性に関する双方向性の予測モデルが開発された。
既存アジュバントの毒性予測や新規候補予測システムの信頼性をマウス実験で実証
この予測モデルから2つの全く新たな知見が得られた。1つ目は、ADBのアジュバント候補薬の中から、OTGのデータを用いた機械学習による肝毒性を予測した結果、FK565という細菌由来の合成免疫賦活剤として知られる薬剤が肝臓毒性を示しうると予測し、実際のマウス、ラットの実験で肝臓に壊死を誘導する強い毒性が見られることを証明した。
2つ目は、逆にOTGに登録された薬剤の中から、アジュバントになりうる薬剤として、古くから痛風発作の予防や地中海熱などの自己炎症性疾患の治療薬として臨床使用されているコルヒチンが機械学習によって予測された。そして、実際のマウスによる実験で、コルヒチンがタンパク質ワクチンに対する有効なアジュバントとして機能することが実証された。
データ駆動型スクリーニングシステムとして、広く活用されることに期待
「ADBの構築は、より安全で効果的なワクチンの開発を加速する強力なデータ駆動型のスクリーニングシステムとして、また毒性といった非臨床試験の重要な評価に関しても実際の実験と並行して利活用できるため、アカデミアのみならずワクチン、免疫療法の創薬や規制にかかわる世界中の研究者に広く活用されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立医薬基盤・健康・栄養研究所 プレスリリース


