ICU患者のVAP対策、日本では口腔ケアが標準化されていない
藤田医科大学は8月12日、ICU(集中治療室)において気管挿管を受けた患者に対する標準化された口腔ケアの実施が、口腔内の細菌数および微生物多様性(マイクロバイオーム)に有意な影響を与えることを臨床的に証明したと発表した。この研究は、同大医学部歯科・口腔外科学講座(吉田光由教授)、消化器内科学講座、および医科プレ・プロバイオティクス講座(廣岡芳樹教授)を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Critical Care」にオンライン掲載されている。

人工呼吸器関連肺炎(VAP:Ventilator-Associated Pneumonia)は、ICU入院中に気管挿管を受けた患者において頻発する重篤な感染症であり、死亡率や入院期間、医療コストを大幅に増加させることが知られている。近年、口腔内の衛生状態がVAPの発症に関与することが注目されており、欧米では口腔ケアが予防バンドルに含まれている。一方で、日本国内においては、口腔ケアの実施が必ずしも標準化されておらず、その有効性に関する科学的根拠も限定的であった。今回の研究では、実際のICU患者を対象に、細菌数および菌叢変化の観点から口腔ケアの有効性を初めて明確に示した。
1日4回の口腔ケアで舌表面の細菌数減少、口内環境が良好に変化
今回の研究では、藤田医科大学病院ICUに2023年2~5月に入室した、48時間以上の気管挿管を受けた15人の患者を対象とし、日本クリティカルケア看護学会の指針に基づいた1日4回の標準化された口腔ケア(保湿ジェル塗布、歯磨き、スポンジブラシ清掃、吸引など)を実施した。口腔サンプルを舌表面から採取し、細菌数を電気インピーダンス法(DEPIM)、菌叢は16S rRNA遺伝子シーケンスにより評価した。挿管中および抜管後、口腔ケア前後の4つの時点で細菌数を測定し、菌叢解析は各期のケア前に2回実施した。
結果、気管挿管中および抜管後の患者において、口腔ケア後に舌表面の細菌数が有意に減少した(挿管中:p<0.001、抜管後:p=0.011)。さらに、Shannon指数およびChao1指数を用いて菌叢の多様性を評価したところ、抜管後に多様性が有意に低下し(p=0.0479、p=0.0054)、口腔内マイクロバイオームの構成変化が確認された。加えて、Streptococcus sinensisやCampylobacter concisusなど、VAPに関与する可能性がある細菌種の相対量が減少していることも明らかになった。
ICUケアの標準化、口腔ケア製品や技術の開発に期待
今回の研究は、口腔ケアがICU患者の感染管理において極めて重要であることを示しており、VAP予防バンドルへの組み込みが期待される。「今後、再現性を高めるための全国的な共同研究、およびVAP発症率や患者予後との関連を評価する長期観察研究が予定されている。抗菌剤非使用型の口腔保湿製品や、高齢・重症患者にも適した新たなケア技術の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・藤田医科大学 プレスリリース


