糖尿病患者の動脈硬化、どの脂質が関与するのか?
大阪大学は8月8日、糖尿病患者の動脈硬化進展に血中脂質「ジアシルグリセロール」が関わることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の田矢直大寄附講座助教(糖尿病病態医療学)、片上直人講師、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループと九州大学生体防御医学研究所の馬場健史教授(高深度オミクスサイエンスセンターメタボロミクス分野)の共同研究によるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」のオンライン版に掲載されている。

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糖尿病は高血糖を特徴とする疾患だが、脂質代謝にも異常を来すことが知られている。一般的に、糖尿病状態では動脈硬化が進みやすく、患者の健康寿命に影響を及ぼす。
脂質の多くは脂肪酸が基本骨格に結合した構造を持ち、ヒトの体内には数多くの種類の脂質が存在する。動脈硬化の進展にはさまざまな脂質が関与することが報告されているが、糖尿病状態において動脈硬化に関与する脂質は十分に解明されていなかった。また、血中脂質には似た構造のものが多いため、多種類の脂質を正確に一括測定するには技術的な課題があった。
糖尿病患者の血中脂質を網羅的に測定、ジアシルグリセロールが動脈硬化と関連
今回の研究では、大阪大学医学部附属病院に通院中の糖尿病患者から採取した血液に含まれる約350種の脂質を、九州大学が開発した測定法を用いて網羅的に測定した。併せて、頸動脈エコー検査で、動脈硬化の程度を示す「頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(carotid intima-media thickness、頸動脈IMT)」を評価した。
これらのデータを統計学的に解析した結果、複数のジアシルグリセロール(グリセロール骨格に脂肪酸が2つ結合した脂質)が頸動脈IMTと関連することを発見した。さらに、総ジアシルグリセロール量も頸動脈IMTと関連していた。
5年間にわたって動脈壁の変化を追跡調査したところ、血中ジアシルグリセロール値が高いほど頸動脈IMTの増加が速いことがわかった。また、血中ジアシルグリセロール値から動脈硬化が進みやすい患者をより正確に判別できることが示唆された。
動脈硬化の新たな指標として期待、今後の課題はメカニズムの解明
動脈硬化は、糖尿病患者の健康寿命に影響を与える重大な合併症の一つである。今回の研究成果により、血中ジアシルグリセロールの測定が動脈硬化の進行評価に有用であることが示唆された。近年、糖尿病患者の動脈硬化性合併症に有効な糖尿病治療薬が明らかになりつつある。ジアシルグリセロールの測定により動脈硬化リスクの高い患者がわかれば、適切な薬剤の使用などの対策をとることが可能になる。
「現時点ではジアシルグリセロールがどのように動脈硬化を進ませるかは明らかでないが、今後この仕組みを解明することで新たな動脈硬化の治療法の発見が期待される」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU


