生活習慣病の複合的病態CKM症候群、関連する腎臓タンパク質の遺伝的制御は未解明
帝京大学は8月12日、ヒト腎臓で発現するタンパク質の遺伝的制御が、心血管病・腎臓病・脂質異常症といった生活習慣病に深く関与していることを明らかにしたと発表した。今回の研究は、同大医学部内科学講座腎臓研究室の広浜大五郎講師、米国ペンシルベニア大学医学部のKatalin Susztak教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載されている。

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高血圧や糖尿病に合併する慢性腎臓病(CKD)は、腎機能(eGFR)の低下、あるいはタンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く病気である。CKDは、心疾患や脂質異常などと密接に関連する心腎代謝症候群(CKM症候群)における中心的な疾患の一つである。CKM症候群は近年提唱された疾患概念で、生活習慣と深く関わる複合的な病態を包括しており、世界人口の約3分の1が罹患しているとされている。腎機能は、腎臓内で働くさまざまなタンパク質によって制御されているが、従来のゲノム解析や血液中のタンパク質測定だけでは、腎臓でのタンパク質発現が遺伝的にどのように制御されているかは十分にわかっていなかった。
そこで今回の研究では、「腎臓そのもののタンパク質(腎臓プロテオーム)」に着目し、その発現量と遺伝的背景を網羅的に解析することで、CKM症候群との関係を解明した。
腎臓組織の統合解析で、タンパク質の遺伝的制御と疾患の因果関係を体系的に評価
研究グループは、ヒト腎臓330例から得られた腎皮質組織を用い、プロテオーム解析(SomaScan)、RNA解析、全ゲノム解析を統合的に実施した。その結果、腎臓組織に存在する約7,000種類のタンパク質発現量と関連するゲノム上の領域(pQTL)を明らかにした。このデータをもとに、36種類の心臓・腎臓・代謝に関連する疾患・検査項目(例:糖尿病、脂質異常、腎機能、血圧など)のGWASデータと照合し、共局在解析およびメンデルランダム化解析により、腎臓でのタンパク質発現の遺伝的制御と疾患との共通の遺伝的背景や因果的関連を体系的に評価した。
疾患関連分子を多数同定
評価の結果、腎臓で遺伝的に発現制御されているタンパク質の中に、各種疾患発症と強く関連する分子が多数見出され、従来の血液やRNAレベルでは見落とされていた新たな知見が得られた。
既知タンパク質PLA2R1・ANGPTL3の新たな機能も判明、治療標的としての可能性を示唆
今回の研究では、ヒト腎臓組織におけるタンパク質・RNA・遺伝子の網羅的な解析を通じて、CKM症候群の共通の遺伝的基盤を明らかにし、以下のような代表的成果を示した。
PLA2R1(phospholipase A2 receptor 1)タンパク質は、膜性腎症の自己抗体標的として知られているが、今回の研究では、一般集団においても、PLA2R1タンパク質の発現上昇が腎機能(eGFR)低下と関連する遺伝的背景が存在することを明らかにした。
ANGPTL3(angiopoietin-like 3)タンパク質は、脂質代謝に関与する分子として知られていたが、今回の研究では、腎臓における発現量が腎機能(eGFR)や脂質(LDLコレステロール、中性脂肪)と共通の遺伝的要因によって制御されていることが示唆された。これは、腎臓・代謝疾患にまたがる治療標的としての可能性を示す。
腎臓に着目した新たな診断法・治療法の開発などにつながると期待
今回の研究は、ヒト腎臓におけるタンパク質発現量と関連するゲノム上の領域(pQTL)を解析した初の大規模研究であり、腎臓タンパク質が全身の疾患に与える影響を遺伝的観点から明示した。「今後これらの分子の機能的な解明や臨床応用に向けた研究が進めば、腎臓に着目した新たな診断法・治療法の開発や個別化医療の推進に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・帝京大学 プレスリリース


