高齢CKD患者に多いサルコペニア合併、予防・治療法の確立に課題
東北大学は8月5日、母乳に含まれる多機能性タンパク質であるラクトフェリンが慢性腎臓病(CKD)およびそれに伴うサルコペニアの進行を抑制する可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科臨床薬学分野の佐藤恵美子准教授、岩本千奈大学院生(研究当時)、山越聖子助教、堰本晃代助手(研究当時)、髙橋信行教授らの研究グループ、および同大大学院薬学研究科外山喬士准教授、斎藤芳郎教授、大阪公立大学大学院獣医学研究科細見晃司准教授、医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センター國澤純センター長、東北大学大学院医学系研究科腎臓内科学分野三島英換非常勤講師らとの共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Nutritional Biochemistry」に掲載されている。

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CKDは腎臓の働きが徐々に低下していく進行性の病態であり、日本では成人のおよそ5人に1人が罹患しているとされる深刻な健康問題である。特に高齢のCKD患者ではサルコペニア(筋力・筋量の低下)を合併している割合が高く、末期腎不全ではその影響が深刻である。サルコペニアはCKDの進行を早めたり、死亡リスクの上昇や生活の質の低下につながったりすることがわかっている。しかし、なぜCKDでサルコペニアが起こるのかという詳しい仕組みは、まだ解明されていない。また確立された予防法や治療法も存在していないため、病態の解明と治療戦略の確立が強く望まれている。
ラクトフェリン投与で腎機能指標が約50%改善、筋肉の萎縮も約40%抑制
ラクトフェリンは抗菌・抗炎症作用に加え、腸内環境の改善に役立つとされる母乳に含まれる多機能性タンパク質成分である。今回の研究では、CKDモデルマウスを用いて、ラクトフェリンの「予防効果(腎障害の進行を抑える)」と「治療効果(すでに進行した障害への効果)」の両面を評価した。その結果、腎臓病のマウスでは、腎機能の低下とともに腎機能の指標となる血液中尿素窒素や血液中クレアチニン濃度が上昇するが、ラクトフェリンを投与することで、これらの指標の上昇を約50%抑えられた。また腎臓病では、腎機能の低下とともに筋肉の萎縮が引き起こされ、筋線維の横断面積は小さくなるが、ラクトフェリンを投与することで、筋線維の横断面積の縮小が約40%抑えられた。
さらに筋肉における影響として、CKDによって異常に活性化していたタンパク質の分解、オートファジー(細胞の不要物を除去する機能)、およびアミノ酸代謝の乱れがラクトフェリンによって是正された。またCKDによる腸内細菌のバランスの乱れ(腸内環境の悪化)によって産生が増加する有害な尿毒素「インドキシル硫酸」が血液や筋肉に蓄積されていたが、ラクトフェリン投与によりその蓄積が有意に抑えられた。
ラクトフェリンは腸内環境改善を介して、腎臓および筋肉に好影響を及ぼす
今回の研究では、ラクトフェリンは腸内環境の改善を介して「腸-腎関連」ならびに「腸-筋関連」を通じて全身に作用し、CKDおよび合併するサルコペニアの進行を抑えることが示された。今後、ラクトフェリンはCKDや合併するサルコペニアの予防・治療における有望な介入手段となる可能性が期待される。またラクトフェリンは、多機能性を有する食品由来の機能性成分であり、今後、ラクトフェリンと作用機序の異なる機能性成分との併用によって、相乗的な効果も期待される。「今後の研究を通じて、より高い効果を備えた予防・治療薬の開発を進めることで、CKDおよびサルコペニアに対する新たな対策となり、国民の健康リスクを軽減し、健康寿命の延伸にも貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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