OTUD3遺伝子変異で潰瘍性大腸炎の発症/重症化リスク増の理由は不明
大阪大学は7月19日、潰瘍性大腸炎の発症・重症化のメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大高等共創研究院の香山尚子准教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)、同大大学院医学系研究科の竹田潔教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)らのグループによるもの。研究成果は、「Science Immunology」に掲載されている。

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潰瘍性大腸炎は指定難病のひとつであり、世界的に患者数が増加している。これまでの解析から「遺伝子の変異」「腸内微生物叢の変化」「免疫応答の異常」が病態に関わっているとされているが、発症や重症化に関わる詳細なメカニズムについては完全には解明されていない。OTUD3遺伝子には潰瘍性大腸炎リスクSNPが存在することが報告されていたが、なぜOTUD3遺伝子に変異があると潰瘍性大腸炎の発症/重症化リスクが高くなるのか、そのメカニズムは不明だ。
OTUD3タンパク質が、線維芽細胞特異的に強発現する分子であることを発見
研究グループはまず、マウスとヒト正常大腸組織から採取した細胞を用いてOTUD3タンパク質の発現を調べた。その結果、免疫細胞や上皮細胞にOTUD3は発現しておらず、線維芽細胞に強く発現することが明らかになった。
腸内細菌産生の「3’3’-cGAMP」が活性化するSTING炎症シグナルを、OTUD3が抑制
次に、線維芽細胞でのみOtud3遺伝子がないマウスを作成し、潰瘍性大腸炎に似た腸炎を発症させるためにデキストラン硫酸塩(DSS)を経口投与したところ、大腸炎が重症化することがわかった。また、Otud3遺伝子がない大腸線維芽細胞では、腸内細菌が産生する分子「3’3′-cGAMP」によるSTINGシグナルの活性化が亢進することを見出した。
そこで、Otud3遺伝子とSting遺伝子の両方をもたないマウスを作成し、DSSを経口投与したところ、大腸炎の重症化は起こらなかった。さらに、Otud3遺伝子に潰瘍性大腸炎の発症リスクSNP(rs758098056)をもつマウス(Otud3 R89Qマウス)を作成し、DSSを経口投与したところ大腸炎が重症化した。しかし、3’3′-cGAMPを細胞内に取り込むための輸送体VRACに対する阻害剤をOtud3 R89Qマウスに投与すると、大腸炎は重症化しなかった。
以上より、OTUD3遺伝子にSNP(rs10799593)をもつヒト大腸線維芽細胞では、OTUD3タンパク質の発現が低下していること、3’3′-cGAMPによるSTINGシグナル活性化が亢進することがわかった。
潰瘍性大腸炎の患者では、3’3′-cGAMPを産生する腸内細菌が増加
腸内細菌叢解析の結果、健常者に比べて潰瘍性大腸炎の患者では、3’3′-cGAMPを産生する腸内細菌が増加していること、それに伴い、腸内の3’3′-cGAMP濃度が上昇していることが明らかになった。
Otud3 R89Qマウスと野生型マウスに健常者の腸内細菌叢もしくは潰瘍性大腸炎患者の細菌叢(3’3′-cGAMP産生細菌を多く含む細菌叢)を移植した。その結果、潰瘍性大腸炎型腸内細菌叢をもつOtud3 R89Qマウスにのみ潰瘍性大腸炎様の症状があらわれた。しかし、Sting遺伝子を欠損させたOtud3 R89Qマウスに潰瘍性大腸炎型腸内細菌叢を移植しても症状はあらわれなかった。
以上のことから、OTUD3遺伝子に変異をもつ潰瘍性大腸炎患者では、腸内細菌の乱れにより3’3′-cGAMPが増加すると線維芽細胞においてSTING炎症シグナルが亢進し疾患の発症や重症化の原因となることが明らかになった。
遺伝子変異情報を基にした潰瘍性大腸炎の個別治療法開発に期待
今回の研究により、特定の遺伝子変異(OTUD3遺伝子の変異)と腸内環境の異常(腸内細菌叢の乱れによる3’3′-cGAMPの増加)が線維芽細胞を介して結びつくことで、潰瘍性大腸炎の発症や重症化の原因となることが明らかにされた。
「本研究で得られた知見から、3’3′-cGAMP産生細菌、cGAMP輸送体VRAC、STINGシグナル経路を標的とした潰瘍性大腸炎の個別化療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU


