糖尿病、原因の一つはアポトーシスによる膵β細胞数の減少
群馬大学は7月14日、膵β細胞の増殖を促進し、アポトーシスを抑制する代謝産物として「アデニロコハク酸(Adenylosuccinate:S-AMP)」を特定したと発表した。この研究は、同大生体調節研究所の白川純教授、井上亮太助教らの研究グループと、国立国際医療研究センター、カナダ・アルバータ大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Diabetes」に掲載されている。

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現在、日本では成人の約4人に1人が糖尿病、またはその予備群であるとされており、糖尿病は「国民病」ともいえるほど身近な病気となっている。糖尿病では、血糖値を下げる働きを持つホルモン「インスリン」の分泌量や効果が不足することで、血糖値が慢性的に高くなる。インスリンは膵臓の中にある膵島に存在する「膵β細胞」で作られるが、糖尿病患者では、膵β細胞数が減少し、十分なインスリンを作れなくなることが、病気の発症や進行の原因の一つと考えられている。
通常、膵β細胞は、肥満などによってインスリンの効きが悪くなった場合(インスリン抵抗性)に、より多くのインスリンを作ろうとして細胞分裂を行い、自らの数を増やす仕組みが備わっている。しかし、持続する高血糖や、血液中の脂肪酸の増加、体内の慢性的な炎症などの影響で膵β細胞に負担がかかると、「アポトーシス」が進行する。
膵β細胞の数の減少によるインスリンの供給不足は、糖尿病の発症・悪化を招く。したがって、膵β細胞の増殖を促すと同時にアポトーシスを抑えることができれば、糖尿病の新たな治療法として大きな可能性があると考えられる。また、自己免疫疾患である1型糖尿病でも、わずかに膵β細胞が膵臓の中に残っていることから、体内で膵β細胞を再び増やすことができれば、インスリン産生の回復につながることが期待される。
膵β細胞の増殖促進・アポトーシス抑制に働く「イメグリミン」、メカニズムは不明
糖尿病治療薬の一つである「イメグリミン」は、膵β細胞からのインスリン分泌を増やすだけでなく、肝臓や筋肉におけるインスリンの効きを良くすることで、血糖値を下げる働きがあるとされている。2022年に白川教授らの研究グループは、イメグリミンが膵β細胞の増殖を促し、アポトーシスを防ぐ作用があることを報告したが、そのメカニズムは不明だった。
代謝産物に着目してイメグリミンの作用機序解明に挑戦
細胞は外から取り入れた糖やアミノ酸、脂質などの栄養素を代謝し、エネルギーや必要な物質を作り出している。この過程で生まれる様々な物質を「代謝産物」と呼ぶ。代謝産物は細胞の状態を反映する重要な指標であり、遺伝子やタンパク質の変化よりも直接的な影響を示すことがある。
そこで今回の研究では、「メタボロミクス」という技術を用いて、イメグリミンによって膵島(膵β細胞を含む)で変化する代謝産物を網羅的に調査した。
イメグリミンにより膵島では「S-AMP」が増加
その結果、イメグリミンによって膵β細胞の増殖が促進され、アポトーシスが抑制されている状態において、変化する特定の代謝産物を同定した。
中でも注目されたのが、「S-AMP」という代謝産物だ。S-AMPはDNAの構成成分であるアデニンの合成過程で生じる中間代謝物であり、細胞の成長や増殖に関わると考えられている。さらに、S-AMPの材料となるアスパラギン酸やイノシトールリン酸も同時に増加していることがわかった。
経時的に代謝物の変化を調べると、S-AMPが増える前にアスパラギン酸やイノシトールリン酸の増加が先行して起こっていた。また、S-AMPを合成する酵素であるアデニロコハク酸合成酵素(Adss:Adenylosuccinate synthetase)の遺伝子やタンパク質の量も、イメグリミン投与時に増えていることが確認された。
S-AMPに膵β細胞の増殖促進・アポトーシス抑制作用、ヒト膵島でも確認
そこで、S-AMPが膵β細胞の増殖やアポトーシス抑制に関わるかをさらに詳しく検討した。
S-AMP合成を阻害する薬剤である「アラノシン」でマウス膵島を処理すると、イメグリミンによる膵β細胞の増殖促進やアポトーシス抑制が見られなくなった。この現象は、膵島移植に用いられるヒト膵島、再生医療に用いられるヒト多能性幹細胞由来膵島、さらには異種移植の研究に用いられる幼若ブタ膵島においても確認された。
さらに、マウス膵島を用いた実験では、アデノウイルスベクターを用いてS-AMP合成酵素の遺伝子をノックダウンすると、膵β細胞の増殖が減少し、アポトーシスが増加した。一方で、同じ酵素を過剰発現させると、膵β細胞の増殖が促進され、アポトーシスが抑制された。
膵β細胞数を増やす新しい糖尿病治療法につながる可能性
今回の研究では、既に臨床で実績を持つ薬剤であるイメグリミンを用いてS-AMPが膵β細胞数の増加に関わることを明らかにした。この研究成果は、安全で新しい糖尿病治療法の開発につながる可能性がある。
「今後、S-AMPがどのように働くのかが解明されれば、膵β細胞を回復させる糖尿病治療への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・群馬大学 プレスリリース


