個人差大きい脳卒中患者の歩行評価、従来法・IMU代替手段ともに課題
東北大学は7月2日、脳卒中患者に見られる左右非対称な歩行パターンに対し、少ないデータとセンサで歩行運動を予測する新たな方法を開発したと発表した。今回の研究は、同大大学院工学研究科の林部充宏教授、大脇大准教授、Yan Guo大学院生(研究当時)、同大病院診療技術部リハビリテーション部門の関口雄介主任理学療法士(現同大学大学院歯学研究科)、同大大学院医学系研究科の海老原覚教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering」に掲載されている。

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脳卒中は脳組織に損傷を与える疾患で、主に身体の片側に運動麻痺を引き起こす。日本では認知症に続いて介護が必要となる原因の第2位を占めており、発症によって自立した生活が困難になる例も少なくない。脳卒中患者は、左右非対称な歩行パターンを示し、下肢関節の運動様式は個人差が大きいことが知られている。従来法として、光学式3次元動作解析装置などを用いる方法があるが、多数のマーカーの設置や専用の計測環境が必要となり、準備・実施の負担が大きいという課題がある。
この代替手段として、加速度や角速度を測定できる慣性計測装置(IMU)が注目されている。IMUはウェアラブルで取り扱いやすいため、日常生活環境での歩行評価にも適しているが、精度の高い予測には通常複数個の装着が必要とされ、依然として簡便な運動評価には課題が残っている。
時間的畳み込みネットワーク+物理法則組み込みで2つのIMUから高精度AI予測
今回の研究では、時間的畳み込みネットワークと人体の運動に関する物理法則を組み込んだ機械学習を組み合わせることで、IMUの使用をわずか2つに抑えながらも、高精度な下肢運動予測を可能とする新たなフレームワークを開発した。この手法では、2つのIMUから得られる測定値に加え、生体運動歩行モデルに基づいて導出された物理的制約を複合損失関数に組み込み、学習ネットワークの性能向上を図っている。
患者と健常者対象に検証、4つ以上のIMU使用の従来システムと同等の運動再構築精度
今回の手法の有効性を評価するため、17人の慢性期脳卒中患者と6人の健常者を対象にした検証を行った。二乗平均平方根誤差(RMSE)およびピアソン相関係数(PCC)を用いて予測結果を評価し、4つ以上のIMUを使用した従来システムと同等の運動再構築精度が得られることが確認された。さらに今回の手法は、データを大量に必要とする従来の学習アプローチとは異なり、物理法則を取り入れることで、特に計測データ量が限られる状況下において、精度の向上に寄与することが明らかになった。
多数のセンサ不要で実用的、簡便な個別の運動機能評価につながると期待
今回得られた知見から、少数のセンサを用いた場合でも、脳卒中患者の麻痺側および非麻痺側の両方における歩行中の下肢運動予測が可能であることが示された。また、健常者と慢性脳卒中患者の両方において高い推定精度が得られたことは、今回のフレームワークの有効性と汎化能力を示すものであり、少ないデータとセンサによる実用的なリハビリテーション支援への応用が期待される。「今後は、さらに多様な症例や日常生活環境における歩行評価への適用を進めることで、個別化された運動機能評価を簡便に実施できる新たな支援技術の確立が期待される」と、研究グループは述べている。
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