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TP53変異クローン性造血と疾患発症リスクの関係、遺伝・環境要因が明らかに-理研ほか

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2025年07月08日 AM09:20

がん患者でよく検出されるTP53遺伝子変異を伴うクローン性造血、詳細は未解明

理化学研究所(理研)は6月17日、日本の約14万人における、TP53遺伝子変異を伴うクローン性造血について世界最大規模の評価を行い、その特徴や臨床的意義を明らかにしたと発表した。今回の研究は、理研生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの碓井喜明基礎科学特別研究員、桃沢幸秀チームディレクター(生命医科学研究センター副センター長)、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻クリニカルシークエンス分野の松田浩一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood Cancer Discovery」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

血液のがんでは血液細胞にゲノム異常が生じている。一方で、血液のがんが発症していない人においても加齢とともに血液細胞にゲノム異常が生じる現象が明らかになり、「クローン性造血」として近年注目を集めている。このクローン性造血は、血液のがんに加えて心血管疾患など幅広い疾患のリスクにも関連することが知られている。また、TP53遺伝子変異を伴うクローン性造血はがん患者においてよく検出されることが知られている。しかし、TP53遺伝子変異を伴うクローン性造血の保持者は他の遺伝子の変異と比較して少なく、変異アリル頻度が低い変異も含んだ大規模な評価は技術的に課題もあり、その幅広い影響については十分明らかになっていなかった。

そこで今回の研究では独自の解析技術を用いることにより、上記の課題を克服してTP53遺伝子変異を伴うクローン性造血の特徴や臨床的意義を明らかにすることを目指した。

血液がんのない14万人解析、421種類の変異と1,157人の保持者を同定

研究グループはまず、バイオバンク・ジャパンが保管する血液のがんを有していない14万597人のDNAを対象に、次世代シークエンサーによって得られたデータを用いて、独自に開発した解析技術によりTP53遺伝子変異を伴うクローン性造血の評価を行った。この解析技術により、変異アリル頻度が低い変異も含み、かつ、大規模サンプルの評価が可能となった。その結果、421種類の変異を同定し、1,157人のクローン性造血の保持者を同定した。クローン性造血の年齢ごとの保持割合を評価したところ年齢とともに高くなっていたが、変異が含まれている程度を示す変異アリル頻度が低い場合、年齢とともに増加する傾向はより顕著になっていた。今回の研究では変異アリル頻度が低い変異も含めた評価ができたことによって、より多くの保持者が同定されたことを示している。また、クローン性造血の保持者は血液以外のがんを有する人に多く認められたが、血液以外のがんを有していない人においても同様に多く認められ、いずれも年齢とともに保持割合が増加していた。

TP53変異は血液がんと呼吸器疾患の死亡リスクに関連・心血管疾患は関連なし

クローン性造血の臨床的意義の評価を行うため、血液サンプルを採取したのちに追跡調査を行った8万1,462人(追跡期間の中央値:約10年間)の予後について解析を行った。この解析によって、TP53遺伝子変異を伴うクローン性造血は血液のがんである骨髄系腫瘍やリンパ系腫瘍に加えて、呼吸器疾患(間質性肺疾患、慢性下気道疾患、肺がん)の死亡リスクとも関連があることが明らかになった。一方、他の遺伝子においては関連することが知られているが、心血管疾患の死亡リスクとはTP53遺伝子に関しては有意な関連は認めなかった。

飲酒歴・喫煙歴等とクローン性造血の組み合わせで疾患リスクが相乗的に増大

さまざまな疾患の発症や経過には、遺伝要因や環境要因も影響を及ぼす。そこで、個々人の遺伝要因や環境要因によってクローン性造血の影響がどのように異なるかを解析した。飲酒歴に関しては、アルコールの分解に関係するアセトアルデヒド代謝に関わるALDH2遺伝子の生殖細胞系列バリアントを組み合わせて、アセトアルデヒドによる影響に着目して評価を行った。その結果、アセトアルデヒドによる影響の受けやすさとクローン性造血の両方を有していた人は骨髄系腫瘍、喫煙歴とクローン性造血の両方を有していた人は呼吸器疾患の死亡リスクが、それぞれの要因を単独で有している場合よりも交互作用を伴って一層高かったことが明らかになった。媒介分析の結果、その交互作用は、該当環境要因に由来していない機序により生じたクローン性造血との間に生じていることも示唆された。

炎症抑制に関わるIL6R遺伝子バリアント、クローン性造血の呼吸器疾患リスクに影響と判明

多くの慢性疾患では炎症性サイトカインが関与していることが知られている。そこで、炎症性サイトカインIL-6経路の阻害に関与する遺伝要因として知られているIL6R遺伝子の生殖細胞系列バリアントに注目した。その結果、呼吸器疾患においては、IL6R遺伝子の生殖細胞系列バリアントを有している場合、TP53遺伝子変異を伴うクローン性造血の影響が弱い傾向にあることが明らかとなった。このIL6R遺伝子の生殖細胞系列バリアントは、心血管疾患においてクローン性造血の影響を弱めることが示唆され、クローン性造血と心血管疾患との関係において炎症性サイトカインの寄与が示唆されるようになったものでもある。これらのことから、今回明らかになったTP53遺伝子変異を伴うクローン性造血が呼吸器疾患に及ぼす影響においても、炎症性サイトカインが重要な役割を担っている可能性が示された。これらの結果は、疾患のメカニズムの解明やクローン性造血に基づく臨床予後の評価などに寄与するものと思われる。

臨床応用には更なる検証必要だが、新たな治療標的同定にもつながる可能性

今回の研究では独自のゲノム解析技術を基に、TP53遺伝子変異を伴うクローン性造血について世界最大規模の評価を行った。今回の研究成果により、変異やその保持者の特徴などが明らかになった。さらに、特定の遺伝要因や環境要因とクローン性造血が組み合わさることで、臨床的な影響が異なることもわかった。これらのメカニズムに着目することで新たな治療標的が同定される可能性もある。

今回の結果は観察研究に基づく結果であるため、環境要因による影響を取り除くことでどれくらいのリスク低減につながるかも含めて、臨床現場に応用するにはさらなる検証が必要である。「今後、今回の研究の成果は、疾患のメカニズムの解明やクローン性造血に基づく臨床予後の評価など幅広い分野に寄与するものと期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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