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統合失調症の新薬候補、VIPR2選択的阻害ペプチド化合物「KS-133」創製-広島大ほか

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2021年11月08日 AM10:45

VIPR2発現量増加などが統合失調症と強い関連、一方、選択的阻害薬の開発は難航

広島大学は11月4日、統合失調症の新薬につながる神経ペプチド受容体VIPR2の選択的な阻害ペプチド化合物「KS-133」を創製したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科細胞分子薬理学の吾郷由希夫教授、大阪大学大学院薬学研究科薬剤学分野の中川晋作教授、一丸ファルコス株式会社の坂元孝太郎主席研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Pharmacology」に掲載されている。


画像はリリースより

統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状、意欲の低下などの陰性症状、そして注意・集中力の低下や記憶力・判断力の低下といった認知機能障害などを特徴とする精神疾患。人口の約1%に発症し、その罹患者は日本で約80万人、全世界で2000万人以上とされている。既存の治療薬は、いずれもドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質と呼ばれる分子の働きを調節する作用機序を有しているが、限定的な治療効果が課題となっている。

研究グループを含む複数の基礎研究ならびに臨床研究の報告から、これまでに、VIPやPACAPと呼ばれる神経ペプチドの受容体の一つであるVIPR2の発現量の増加や過剰な働きが、統合失調症と強い関連があることが明らかになってきた。このことから、VIPR2の機能を阻害する化合物が、新しい統合失調症の治療薬になる可能性が示唆されている。しかし、同受容体の持つ構造上の特徴や、神経ペプチドが複数の異なる受容体に結合することなどの理由から、VIPR2選択的な阻害薬の開発は難航している。

血液中で分解されにくく、高い安定性を示すKS-133

今回、従来の統合失調症治療薬として使用されている低分子化合物(分子量400程度)とは異なり、分子量が1500程度の中分子のペプチド化合物を用いることで、VIPR2受容体に対する高い選択性と強力な阻害作用の両方を実現することに成功した。

また、同ペプチド化合物(KS-133)は配列内に2か所の架橋構造(環状化)を有す構造であり、それによって、血液中で分解されにくく、高い安定性を示すこともわかった。

KS-133、統合失調症マウスで認知機能障害発症抑制など確認

続いて、KS-133の効果を統合失調症のモデルマウスを作製して検証。その結果、マウスの発育早期におけるVIPR2の過剰な活性化による神経細胞の未成熟状態を改善し、認知機能障害の発症も抑制することが明らかになった。

今後、細胞や動物モデル、臨床試験での検討を

今回創製したKS-133の安全性や体内での薬物動態は不明だ。今後、細胞や動物モデルなどを用いたさらなる検討、そしてヒトでの臨床試験によって、VIPR2阻害ペプチドの有効性と安全性を確認していくことで、統合失調症の新しい治療薬として登場することが期待される、と研究グループは述べている。

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