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免疫を抑制する特殊な好酸球をマウスの小腸で発見-東北大ほか

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2022年06月14日 AM10:42

小腸には多くの好酸球が存在しているが、役割は不明だった

東北大学は6月10日、マウスの小腸で免疫を抑制する新しい好酸球を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科感染制御インテリジェンスネットワーク寄附講座の笠松純講師らと、ワシントン大学セントルイス医学部、信州大学医学部の共同研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

好酸球は寄生虫感染やアレルギー反応で重要な役割を担う免疫細胞。小腸には多くの好酸球が存在しているが、その役割はよく知られていなかった。

小腸には遺伝子発現パターンが異なる2種類の好酸球が存在、マウスで判明

研究グループは、免疫系の活性化制御に重要な役割を果たしている抑制型C型レクチン受容体「Clec4a4」を発現する免疫細胞の探索から、マウスの小腸にはClec4a4を発現する好酸球(Clec4a4)と、発現しない好酸球(Clec4a4好酸球)が存在することを発見した。この2種類の好酸球の特徴を調べるため、マイクロアレイ解析によって網羅的に遺伝子発現の比較を行った。

その結果、Clec4a4好酸球は免疫抑制に関わる遺伝子群の発現が高いのに対し、Clec4a4好酸球は炎症応答に関わる遺伝子群の発現が高いことが判明した。このことから、小腸には遺伝子発現パターンが異なる2種類の好酸球が存在することが明らかになった。

免疫抑制型Clec4a4好酸球は加齢とともに増加、分化には芳香族炭化水素受容体が必要

さらに、マイクロアレイ解析の結果から、Clec4a4好酸球は「芳香族炭化水素受容体」を高発現していることがわかった。芳香族炭化水素受容体は、ダイオキシンや腸内細菌の代謝産物(この受容体と結合する物質を総称して芳香族炭化水素受容体リガンドと呼ぶ)などと結合して活性化し、腸管の免疫細胞の分化に重要な転写調節因子だ。

そこで、芳香族炭化水素受容体がClec4a4好酸球に及ぼす影響を調べるため、この受容体を欠損したマウス(Ahr遺伝子欠損マウス)の腸管好酸球を解析したところ、Clec4a4好酸球が完全に消失していた。反対に、野生型マウスに芳香族炭化水素受容体のリガンドであるインドール-3-カルビノールを経口投与したところ、Clec4a4好酸球が増加した。このことから、Clec4a4好酸球の分化には芳香族炭化水素受容体が必要であることが判明。また、生後間もないマウスと成体のマウスを比較すると、成体のマウスでClec4a4好酸球が増加していた。これにより、この細胞は加齢に伴って増加することも明らかになった。

さらに、発見したClec4a4好酸球の役割を調べるために、好酸球特異的に芳香族炭化水素受容体遺伝子を欠損させたClec4a4好酸球欠損マウスを作製した。このマウスを使って腸管寄生線虫(Nippostrongylus brasiliensis)感染実験を行ったところ、Clec4a4好酸球欠損マウスでは寄生虫の排除が促進していた。このことから、Clec4a4好酸球は寄生虫に対する免疫応答を抑制していることがわかった。

一方、食物アレルギーを発症した野生型マウスを用いて小腸の好酸球を調べたところ、Clec4a4好酸球が増加していた。以上より、小腸には免疫抑制型Clec4a4好酸球と免疫促進型Clec4a4好酸球が存在していることが明らかになった。

免疫抑制型Clec4a4好酸球に着目した新しい食物アレルギーの治療法開発に期待

先進国では、国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持つとされている。また、食物アレルギーは加齢とともに発症率が低下することも知られている。今回発見した免疫抑制型Clec4a4好酸球は加齢依存的に増加することから、加齢に伴う食物アレルギーの発症率低下に関与している可能性がある。

「食物アレルギーの治療は食事療法が中心であり、本研究は、免疫抑制型Clec4a4好酸球に着目した新しい食物アレルギーの治療法開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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