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手と足の感覚情報処理が脳の中でつながっていることを明らかに、世界初-京大ほか

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2021年10月22日 AM11:00

化学遺伝学とfMRIを組み合わせた新規手法で、一部の脳活動を止めた際の行動や感覚の変化を調査

京都大学は10月21日、化学遺伝学法という脳活動の操作法と、全脳の活動が見える機能的磁気共鳴画像法()を組み合わせて一部の脳活動をピンポイントで止めて、その時の全脳への影響を見る新規手法を開発し、「手と足の感覚情報処理が、実は脳の中でつながっている」ことを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大霊長類研究所の高田昌彦教授、井上謙一同助教、量子科学技術研究開発機構の平林敏行主幹研究員、南本敬史同グループリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuron」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

物を手でつかむ時、ヒトは手の「運動」だけでなく、物に触っている「感覚」を頼りにする。この時、脳では運動野に加えて第一次体性感覚野・手領域が活動し、それが第二次体性感覚野や頭頂連合野などの触覚の中枢へと伝わり、どうすればうまくつかめるかという問題を、これら「ものつかみネットワーク」が解決する。この中で、入口となる第一次体性感覚野が障害されると手の感覚がなくなってしまい、物がうまくつかめなくなる。通常、脳のある領域が障害された時の症状は「その領域の働きが落ちたため」と考えがちだが、実際には、ある脳領域が障害されると離れた領域にも思わぬ影響が出る。したがって、脳の一部が障害された時、その影響がどのように広がるのかを知ることがとても大切だが、その手法は確立されていなかった。

研究グループはこれまで、脳の活動を上げ下げする「スイッチ」の働きを持つ人工受容体を発現させる「」という方法を用いて、サルの脳の一部の活動を高い再現性で繰り返し操作することに成功してきた。今回の研究では、同技術と全脳の活動を可視化するfMRIを組み合わせることで、手で物を触っている時に第一次体性感覚野の活動を止めると、脳全体でどのように活動が変わり、その結果、行動や感覚がどのように変化するのかを調べることを目的に、研究を行った。

ものつかみ障害は、ものつかみネットワークへの情報遮断が原因である可能性

まず、右手に触覚刺激を加えた時の脳活動をfMRIで計測すると、左脳の第一次体性感覚野・手領域が強く活動した。この場所の神経細胞集団に、活動を下げる「スイッチ」の働きをする人工受容体(hM4Di)を発現させた。この人工受容体に作用する薬をサルに投与し、これらの神経細胞の活動を数時間にわたって「オフ」にした結果、右手で物をつかむことが、うまくできなくなることが判明した。

次に、この「ものつかみの障害」の背景に、どのような脳ネットワーク活動の変化が関わっているのかを調べた。手に触覚刺激が加わると、第一次体性感覚野から第二次体性感覚野や頭頂連合野などの「ものつかみ」に重要なネットワークへと情報が流れる。人工受容体によって第一次体性感覚野の活動を止めた状態で手に触覚刺激を加えてfMRIを行うと、第一次体性感覚野の活動が止まるだけでなく、「ものつかみネットワーク」への情報の流れも広い範囲で遮断されることがわかった。つまり、ものつかみ障害の原因は「ものつかみネットワーク」への情報の流れの遮断にあると考えられた。

独立と考えられていた手と足の感覚情報処理や異常が「連動」していることを発見

脳の領域同士のつながりの中には、相手の領域の活動を上げるのではなく、互いに相手の領域を抑制し合うものもあり、その場合は片方の領域が障害されると、他方の領域の活動が上がることがある。手の代わりに足に触覚刺激を加えると、第一次体性感覚野の中で、手領域から離れた場所にある足領域が活動した。そこで、同じように薬を投与して人工受容体を作動させ、手領域の活動を止めた状態で足を刺激したところ、意外にも足領域の活動がさらに大きく増大し、足の感覚が強まっている可能性が考えられた。そこで、今度はサルの足に冷たい刺激を加え、足を引っ込めるまでの時間を測ったところ、fMRIの結果から予測された通り、手領域の活動を止めると、より短い時間で冷たい刺激から足を引っ込めることが明らかになった。

これらの結果は、手領域の活動を止めることで足領域に対する抑制が外れて反応が強まり、それによって足の感覚が過敏になったためと考えられるという。おそらく、正常な第一次体性感覚野では、体の離れた場所についての触覚表現同士が互いに抑制し合うことで、それぞれの場所の触覚を、より正確に表現するメカニズムがあると考えられる。これまで、手足の感覚は互いに独立だと考えられており、今回の知見は、今までの常識を覆す発見だとしている。

精神・神経疾患の回路基盤の解明や治療法開発につながる可能性

今回の研究により、化学遺伝学法とfMRIを組み合わせることで、脳の一部の活動を止めた影響の広がりを全脳で見ることができるようになり、活動を止めたことで生じた障害の本当の原因がわかるだけでなく、未知の障害をも予知できることが初めて明らかとなった。

さらに、ヒト同様に高度に発達した脳を持つ霊長類モデル動物のサルにおいて、ヒトで広く使われているfMRIを応用することで、これまで難しかった脳の一部の活動操作が全脳ネットワークに及ぼす影響の画像化が可能となった。同技術を認知記憶や情動などの高次な脳機能の解明に応用することで、ヒトの脳機能を支えるメカニズムの理解につながるだけでなく、これらの機能が損なわれる精神・神経疾患の回路基盤の解明や治療法の開発に向けた大きなブレイクスルーとなることが期待される。

「精神・神経疾患の症状には脳の一部の不調の影響が他の領域に広がって起こるとされるものが多くあり、このような現象をサルで再現・可視化することで、疾患の機序解明や症状の予測につながると考えられるほか、疾患で機能不全に陥ったネットワークを一部の領域の活動操作によって正常な状態に戻し、その過程をサルで可視化・シミュレーションすることで、治療法の開発にもつながると期待される」と、研究グループは述べている。

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