医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 再発食道がん、ctDNAを用いた血液検査で検出する方法を開発-岩手医科大ほか

再発食道がん、ctDNAを用いた血液検査で検出する方法を開発-岩手医科大ほか

読了時間:約 2分53秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年10月14日 PM12:45

CTスキャンや腫瘍マーカー検査より優れた検査法は?

岩手医科大学は10月12日、がん由来のDNA(腫瘍細胞由来血中循環遊離DNA、circulating tumor DNA:ctDNA)を用いた血液検査が、CT検査や腫瘍マーカー検査に比べ、高い精度で早期再発検出、治療効果判定、および無再発状態確定に役立つことを発表した。これは同大外科学講座の岩谷岳准教授、医歯薬総合研究所医療開発研究部門の西塚哲教授らの研究グループと、札幌医科大学フロンティア医学研究所ゲノム医科学部門の時野隆至教授、医療人育成センター生物学教室の佐々木泰史教授、国立がん研究センター研究所細胞情報学分野連携研究室の増田万里主任研究員らとの共同研究によるもの。研究成果は「Gastroenterology」の電子版に掲載されている。


画像はリリースより

がん患者診療における治療方針の決定、治療効果判定、治療後の再発診断にはCTスキャンや血液腫瘍マーカーが用いられている。CTスキャンは進行度診断再発診断に不可欠な検査であるが、放射線被ばくや微小病変の診断精度が問題点となっている。一方、血液を用いた腫瘍マーカー検査は簡便だが偽陽性/偽陰性が多く、診療経過中の腫瘍量の増減を正確に反映していない症例も数多く見られる。

ctDNAを用いたデジタルPCR検査法の実用性を検証

血中には体内の細胞から遊離したDNA断片が存在するが、がん患者ではがん細胞から遊離したctDNAも循環している。ctDNAは、がん細胞に由来するため個々の患者のがんに生じている特有の変異を共有しており、個別化血液バイオマーカーとして近年注目されている。さまざまながんでctDNAを用いた診断の有用性を期待する報告がされているが、その実用性に関する検証は少なく、いまだ日常検査には至っていない。

ctDNA検査法は次世代シークエンサー(Nextgenerationsequencer:NGS)を用いた方法とデジタルPCRを用いた方法に大きく分けられる。前者は多数の遺伝子異常を同時に解析可能であり、薬物療法の根拠となる変異の同定などスクリーニング検査に優れている。しかし、解析費用が高額かつ検査に時間がかかるためくり返し行われる検査としては普及させにくいのが現状だ。一方、デジタルPCRは少数の変異のみを解析する方法だが、対象とする変異に対してはNGS解析に比較して10~100倍の検出感度を有するほか、検査時間が短く安価なためくり返し検査に適した手法だ。そこで研究グループは、デジタルPCRによるctDNA検査が、再発リスクを有する食道がん治療後の検査に有効かどうかを検証した。

ctDNA検査は既存の血液腫瘍マーカーより多くの症例で臨床所見の推移に合致

ステージ1から4の食道がん患者を対象とし、食道がんで高頻度に異常が見られる31遺伝子の変異スクリーニングを実施。患者特有の変異を用いてデジタルPCRにより診療経過中のctDNAの推移を追跡し、CTスキャンや腫瘍マーカーとの比較検討を行った。

その結果、ctDNA陰性化が見られた患者では、高度進行がんであっても長期生存が得られた。また、再発が見られた患者ではCTスキャンより約5か月早くctDNAの上昇が確認された。さらに、手術、放射線治療、化学療法の治療効果に合わせてctDNAの増減が見られ、治療終了後無再発の患者ではctDNAの陰性状態が維持されていた。ctDNAによる追跡を行った91%の症例で、「再発増大の早期予測」「治療効果の正確な判定」「無再発状態の確認」の1つ以上の項目で臨床検査としての妥当性を有することが明らかになった。いずれの項目でもctDNA検査は既存の血液腫瘍マーカーに比べてより多くの症例で臨床所見の推移に合致していた。

また、食道がん治療経過中のctDNAの推移を調べたところ、既存の腫瘍マーカー検査ではおそらく困難であったような、治療が奏功した場合のctDNAの陰性化、再発に先行したctDNAの上昇、治療後の無再発状態でのctDNA陰性の維持など、ctDNAが迅速に必要な情報を反映していることが確認できた。ctDNAと食道がん患者の予後に関する検討では、治療開始後にctDNAが陰性化する患者は治療後もctDNA陽性を維持する患者に比べ有意に予後が良いことが示された。以上から、治療経過に合わせ複数の採血ポイントでctDNAの変動を追跡することが重要と考えられる。

超高感度デジタルPCR検査を行うことで、ctDNA検査は採血という小さな体の負担のみで、既存のCTスキャンより高い精度で治療後食道がんの診断が可能になる。「デジタルPCRを活用した本手法は導入しやすく、既存の検査システムを大きく改善する可能性がある」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 腹部鏡視下手術の合併症「皮下気腫」、発生率・危険因子を特定-兵庫医大
  • 自閉スペクトラム症モデルのKmt2c変異マウス、LSD1阻害剤で一部回復-理研ほか
  • ChatGPT、日本の医師国家試験に合格可能な成績を達成-金沢大ほか
  • サッカー選手のパス選択判断、強く抑制的な脳神経活動が重要-大阪公立大
  • 2型糖尿病予防アプリ開発、予備群の血糖値/体重改善を確認-新潟大ほか