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胃がん腹膜播種の核酸医薬を創製、マウス腹腔内治療で効果を確認-NIBIOHNほか

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2020年10月09日 PM12:15

腹膜播種を生じる胃がん組織で特異的に高発現のSYT13を核酸医薬の標的に

(NIBIOHN)は10月8日、腹膜播種を起こす胃がんで特徴的に高発現する特徴的な分子であるsynaptotagmin 13()を標的にしたアンチセンス核酸医薬を創製したと発表した。この研究は、NIBIOHN創薬デザイン研究センター人工核酸スクリーニングプロジェクトの小比賀聡招へいプロジェクトリーダー、笠原勇矢サブプロジェクトリーダーが、名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学の小寺泰弘教授、神田光郎講師の研究グループとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Molecular Therapy – Nucleic Acids」に掲載されている。


画像はリリースより

胃がんは日本で年間罹患数(約13万人)、年間死亡者数(約5万人)ともに第2位と頻度が高いがん。胃がんの中でも腹膜播種は、特に難治性で予後不良な状態とされている。現在の標準治療である抗がん剤の全身投与(点滴もしくは内服)では、薬剤ががん細胞に十分に届かないことが一因と考えられ、抗がん剤の腹腔内投与が試みられた。しかし、従来からあるパクリタキセルの腹腔内投与では効果が限定的であり、より効果の高い治療薬の開発が求められている。

名古屋大学の研究グループでは、胃がんの転移に関する基礎研究の成果として、SYT13が腹膜播種を生じる胃がん組織で特異的に高発現していることを発見した。今回、このSYT13を阻害することで胃がん腹膜播種を治療するという創薬コンセプトのもと、独自性の高いアンチセンス核酸の配列設計技術と、特別なキャリアーを必要としないCa2+ enrichment of medium法の技術を有するNIBIOHN創薬デザイン研究センターと共同研究を実施。アンチセンス核酸医薬の全身投与は安全性という点で高いハードルが想定されるが、胃がん腹膜播種の治療における腹腔内投与は、有害事象を回避し、かつ直接的にがん細胞を攻撃可能なアプローチだ。アミド架橋型人工核酸を搭載したアンチセンス核酸医薬の分子量は、すでに腹腔内投与が臨床使用されているパクリタキセルの約7倍。そのため腹膜透過からの血中移行率が低く、腹腔内に長く停滞し長時間にわたってがん細胞に暴露されることで薬効を発揮することが期待される。

肝毒性やオフターゲット効果の回避、結合能を考慮し、2つ選定

研究グループはまず、実際の胃がん症例で切除した胃がん組織中のSYT13発現を汎用性の高い免疫染色法を用いて調べた。すると、明瞭にSYT13発現の陽性・陰性が判定可能であり、SYT13発現陽性の胃がんでは明らかに腹膜播種発生率が高いことがわかった。そこで、SYT13のmRNA配列情報から高次構造予測を行い、肝毒性を起こしやすい配列やオフターゲット効果の回避と、アンチセンス核酸との結合性の良い配列を考慮しながら累計7種の候補アンチセンス核酸を合成。これらを順次、SYT13ノックダウン効率、試験管内でのがん細胞増殖能や浸潤能の阻害効果を比較して、効果の高いアンチセンス核酸配列を選抜した。

その結果、hSYT13-4378とhSYT13-4733の2つを有望なアンチセンス核酸として選定。この2つのアンチセンス核酸を胃がん細胞に添加すると、細胞死を引き起こすカスパーゼというタンパク質の活性が増加するとともに腹膜播種の形成に重要ながん幹細胞性が低下した。さらに、アンチセンス核酸の濃度に平行して、がん細胞の遊走能が低下した。作用メカニズムを明らかにするために実施したシグナル解析により、細胞膜上に存在するSYT13はCXCL12とHB-EGFという遊離タンパク質の刺激を受けて活性化し、がんの悪性度に強く関与するFAKシグナルを調節していることがわかった。

マウスで腹膜播種進行抑制と生存延長を確認

次に研究グループは、マウスを用いた動物実験でアンチセンス核酸による腹腔内治療の効果を調べた。胃がん細胞(MKN1細胞)100万個をマウスの腹腔内に移植して腹膜播種を作製し、これに対して、アンチセンス核酸を腹腔内投与して治療した。その結果、同じく核酸医薬であるsiRNAよりも強力に腹膜播種の進行を抑制した。さらにアンチセンス核酸を投与することで、マウスの生存期間が延長するかどうかについて調べた。胃がん細胞(NUGC4細胞)200万個を腹腔内に移植し、腹膜播種を作製したマウスにアンチセンス核酸を腹腔内投与したところ、腹膜播種の進展が抑制され、マウスの生存期間も有意に延長した。

オフターゲットリスク低く、肝毒性は軽度/なし

アンチセンス核酸が、標的であるSYT13以外の遺伝子を阻害してしまう(オフターゲット効果)可能性についても調べたところ、特にhSYT13-4733ではその危険性が極めて低いことがわかった。一般にアンチセンス核酸医薬は高濃度投与によって肝毒性が生じる可能性が報告されている。そこで、マウスにアンチセンス核酸を投与して2週間後と、そこから休薬した2週間後に血液検査を行って調べた。その結果、hSYT13-4378では軽度の肝機能異常を認めたが、2週間の休薬で正常値に回復した。hSYT13-4733では、肝機能異常を認めなかった。

これらの研究成果は、既に国内特許に出願されている。胃がん腹膜播種に対するSYT13を標的としたアンチセンス核酸医薬は、作用メカニズムが既存の全ての分子標的治療薬と異なるため、完全に新しい治療薬となる。これを病変のある腹腔内に直接投与することによって、全身投与よりも副作用を抑えつつ、効率的に腹膜播種を治療することが期待される。研究グループは今後、第1相臨床試験開始に向けて非臨床安全性試験を進めていくとともに、将来的には胃がんのみならず、腹膜播種が予後を大きく左右する膵がん、卵巣がんなどの他のがんにも応用していくことを目指しているという。腹腔内治療は腹腔投与用皮下ポートを留置することで、外来通院で繰り返し簡単に実施することが可能だ。研究グループは、腹膜播種の治療のみでなく、胃がんの切除後に再発の危険性の高いケースで予防的に投与して腹膜播種再発を防ぐという活用法も検討している。

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