非侵襲的治療が求められる動静脈奇形、ヒト検体でのRAS/RAF/MEK経路関与は不明
大阪大学は7月14日、ヒト動静脈奇形検体を用いて、特定の原因遺伝子異常の有無により臨床症状や顕微鏡像が異なること、遺伝子異常の有無に関わらずRAS/RAF/MEK経路が活性化していることを見出したと発表した。今回の研究は、同大大学院歯学研究科の廣瀬勝俊助教、豊澤悟教授、医学系研究科の堀由美子招へい教員、森井英一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Virchows Archiv」に掲載されている。

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動静脈奇形は、胎生期に動脈と静脈との間に異常なつながりが形成される病気である。この異常な吻合部分は「ナイダス」と呼ばれ、動静脈奇形の主たる病変と考えられている。頭蓋外動静脈奇形の発生率は100万人に2~7人と報告されており、非常にまれな疾患である。時間の経過とともに病状が悪化し、血管の破綻、周囲組織の破壊と壊死などを引き起こし、重症例では心不全や致死性出血を来すこともある。生涯にわたる長期的な病状管理が必要とされ、大きな頭蓋外動静脈奇形は難病に指定されている。根治的な治療法は外科的切除であるが、重要臓器、筋肉、神経と複雑に絡み合い、切除困難な症例も少なくない。また、切除後の5年以内の再発率も85%以上と非常に高いため、非侵襲的かつ根治的な治療法が切望されている。
これまでの動物実験から、RAS/RAF/MEK経路の遺伝子異常が、動静脈奇形のナイダスの形成に関与していることが示唆されている。また、動静脈奇形に対しては、同経路を標的とした分子標的薬であるMEK阻害薬が新規治療法として注目され、国外で臨床試験が進められている。しかし、実際のヒト動静脈奇形検体において、RAS/RAF/MEK経路の活性化が起こっているのか、原因遺伝子がどのようにナイダスの形成に関与するのかについてはわかっていない。
30症例の遺伝子異常・発生メカニズムを検討、ナイダス形成に関与するMAP4K4など特定
研究グループは、世界最大規模の30件の頭蓋外動静脈奇形症例を対象に遺伝子異常を調査し、病気の発生メカニズムについて包括的な検討を行った結果、以下の重要な知見を得た。
1)特定の遺伝子異常を有する症例は、若年者の女性患者に多いこと、特徴的な顕微鏡所見を呈することを見出した。
2)特定の遺伝子異常の有無にかかわらず、動静脈奇形の血管特異的にRAS/RAF/MEK経路が活性化していることを明らかとした。
3)RAS/RAF/MEK経路に関連し、動静脈奇形のナイダス形成に関与すると考えられる候補因子群(MAP4K4など)を特定した。
MEK阻害薬の治療根拠を提供し、新たな治療薬開発にもつながる可能性
今回の研究成果は、動静脈奇形初の治療薬であるMEK阻害薬の治療根拠となり、切除が難しい症例の新たな治療選択肢となることが期待される。「また、原因遺伝子の種類、RNAやタンパク質の発現パターン、そして最終的な表現型である臨床所見や病理所見との関連性を明らかにすることにより、病気発症のメカニズムをさらに解明し、新たな治療薬の開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU


