筋線維芽細胞様CAFs、TGF-βシグナル伝達経路活性化やがん悪化のメカニズムは?
順天堂大学は7月14日、乳がん組織に豊富に存在するがん関連線維芽細胞(CAFs)のうち、筋線維芽細胞様CAFs(myCAFs)ががんを悪性化させる仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科消化器内科学の大久保捷奇助教、分子病理病態学の目澤義弘助教、白木原琢哉准教授、折茂彰主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Oncology」に掲載されている。

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乳がんは日本人女性に最も多いがんであり、その進行や転移を制御するためには、がん細胞だけでなく、それを取り巻くがん微小環境に着目する必要がある。中でも、CAFsはがんの増殖、転移、薬剤耐性などさまざまながん悪性化に深く関与するとされ、CAFsの性質を理解することが治療戦略の鍵と考えられている。CAFsの一種であるmyCAFsでは、TGF-βシグナル伝達経路が活性化していることや、がんを悪化させることが知られているが、その詳細なメカニズムには不明な点が多く残されていた。
乳がんのmyCAFsで高発現するエンドグリン、腫瘍増殖・浸潤・転移に関連
今回の研究では、232例のヒト乳がん組織サンプルの解析から、CAFsでのエンドグリンの発現が陽性である67例は予後が不良であることが明らかになった。免疫染色や遺伝子発現解析によって、エンドグリンは筋線維芽細胞様のCAFs(myCAFs)に発現しており、これらの細胞が腫瘍内でTGF-β1の産生源となっていることを確認した。さらに、myCAFsのエンドグリンの発現抑制により、TGF-βシグナル経路の活性化およびTGF-β1の産生が低下した。このことにより、エンドグリンを介したTGF-β1のオートクリン(自己分泌)様式の作用がmyCAFsの活性化状態の維持に必須であることが示唆された。
乳がんマウスモデルにおいても、エンドグリンの発現抑制がmyCAFsの腫瘍増殖能や浸潤能、肺転移促進能を抑えることがわかった。また、myCAFsが産生するTGF-β1が、パラクリン(傍分泌)様式でがん細胞に対して部分的な上皮間葉移行を誘導し、浸潤・転移能を高める仕組みが解明された。これらの知見により、エンドグリンはmyCAFsのがん促進機能を媒介する中核的因子であり、治療標的として極めて有望であることが示された。
エンドグリンがmyCAFsのTGF-βシグナル伝達を活性化、がん進展を促進
エンドグリンはmyCAFsにおけるTGF-βシグナル伝達促進因子であり、乳がんの増殖や浸潤・転移を促進し予後不良に関わる。myCAFsから産生されたTGF-β1は、エンドグリンを介してmyCAFs自身のTGF-βシグナルをオートクリン様式で活性化するのみならず、パラクリン様式で近傍のがん細胞に部分的な上皮間葉移行を引き起こすことによって浸潤・転移を促進することが明らかになった。
myCAFsのエンドグリン標的の新たな治療戦略開発に期待
myCAFsにおけるTGF-βシグナル活性化やがん促進能の分子機構は不明であった。今回の研究によりmyCAFsで発現しているTGF-β共受容体であるエンドグリンが乳がんの増殖や浸潤・転移に重要な役割を果たすことが明らかになった。エンドグリンはmyCAFsの自己刺激的なTGF-β1産生を促すことによってmyCAFsの活性化の維持に必須であるのみならず、がん細胞に部分的な上皮間葉移行を引き起こすことで浸潤・転移を促進することが明らかになった。これらの知見は、乳がん治療においてmyCAFsのエンドグリンを標的とすることで、がんの進行や転移を抑える可能性を示唆しており、新たな治療戦略の開発に貢献することが期待される。今後は、エンドグリンの発現がmyCAFsでどのように亢進するのか、また、エンドグリンを介したTGF-βオートクリンシグナル伝達によって産生される他の腫瘍促進因子について、さらなる研究を進める予定である、と研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース


