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筋-腱の動きを短時間・高精度解析、エコー画像の自動認識プログラム開発-埼玉県立大

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2025年08月04日 AM09:30

動画データを手作業で処理するため、時間的・経済的コストが課題だった

埼玉県立大学は7月9日、超音波エコー画像の自動認識プログラムを開発したと発表した。このプログラムは腓腹筋(ふくらはぎの後面にある筋肉)とアキレス腱の接続部分にある特定の構造が移動する量を自動的に追跡し、アキレス腱が伸長する量を推定することができる。この研究は、同大保健医療福祉学研究科(大学院)宮澤拓氏と金村尚彦教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Ultrasonic Imaging」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

超音波エコーを用いた筋や腱の研究は古くから行われ、運動メカニズムを解明する貴重な知見を明らかにしてきた。しかし、身体の奥にある筋や腱の動きを捉えることが容易である一方で、その解析には複数の課題があった。画像が白黒であるため画像認識が難しく、目標とする構造の移動量を人が手作業で追跡するには限界がある。 画像を1枚1枚手作業で解析することは、多大な労力を要する作業である。また、超音波エコーによる画像データの取得は容易であるものの、そのデータを解析する確立された技術は存在していない。 画像認識分野では深層学習による飛躍的な技術進歩が見られる一方で、超音波エコーにおける筋線維や腱の形態には個人差が大きいため、AIによる学習を進めることが容易ではない。これらの要因により、動画データの手作業による処理が依然として行われており、時間的・経済的に大きなコストがかかっている。

独自の画像追従アルゴリズムで筋-腱の動きを自動解析

今回の研究では、自動で筋-腱の動きを解析する画像認識プログラムの開発を目標とした。若年者20人を対象に、足関節の底屈運動を行った際の腓腹筋とアキレス腱の移行部が移動する様子を動画データとして取得。移動量を安定して追従するため、関心領域から多数の特徴点を抽出し、すべての点の移動をオプティックフローという古典的な画像追従アルゴリズムをもとに算出した。点の中には動くものと動かないものが含まれるため、そのうち動きのある点のみを計算に含み、全体の移動量を推定した。

次に、今回開発した手法が人の手で解析する手法とどれだけ近似するかを確認するため、超音波エコーに熟練した理学療法士に手作業で同じ動画データを解析してもらった。その結果を比較し、誤差や再現性を確認した。さらに、従来の手法との優位性を確認するため、これまでに他の研究者によって開発された2つの方法とも比較を行った。

誤差1mmの高精度と10秒以下の高速解析を実現

その結果、今回開発した方法は、人が目視で認識する動きと非常に近似した追従性を発揮することが確認された。目標となる筋-腱移行部が15mm前後動くのに対し、誤差は約1mmに抑えられ、これは従来の方法と比べて非常に小さい結果だった。

また、繰り返し解析した際の再現性に関しても、他の2つの手法と比べて優れており、人が手作業で解析する場合よりも安定した結果を出力した。これは、多くの特徴点を使用して動きを追従するというアイデアが、プログラムの安定性が高めたと考えられる。

解析時間についても大幅な時間短縮が実現した。これまで、人が約10秒程度の動画データを解析するには、300フレームを解析するためにデータを間引いたとしても3分以上の時間を要した。しかし今回開発した手法では10秒以下で解析が完了した。

超音波エコー診療の科学的根拠を強化、全身応用にも期待

今回開発した自動認識プログラムは、従来の手法に比べて正確性が高く、また処理速度も高速であることから、今後の超音波エコーの研究で広く利用できると期待される。また超音波エコーは一般診療でも広く用いられているため、診療根拠となる基礎研究でも有用性が望まれる。「高い精度かつ高速な画像処理技術は、昨今の超音波エコー診療の科学的論拠を構築するために必須な要素である。今回のプログラム開発及び精度検証は身体の特定の部位のみを対象としたものであったが、研究のアイデアは全身のさまざまな部位に適用できる可能性がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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